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1章

8.重なる過去

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 瞬間、彼の姿が何故か、幼い頃に助けてくれた騎士と重なる。

(あれ? なんで? あの人とは全然違うのに)

 顔も声もおぼろげだが、もっと紳士的でかっこよかった気がする。少なくとも鬼のようにしごいたりひとを子供扱いするような人物でなかったはず。

 それなのに、なぜ?

 戸惑いが隠せないアルティーティは、コクコクとうなずくしかできない。
 そんな彼女を見て彼は息をついた。

「……で、なぜ飛び出した?」

(ゔ……)

 一段落とした声色にたじろぐ。おかげで、重なりかけた憧れの騎士の気配は一気に霧散した。

 後衛は出しゃばるな、と言われたことは覚えている。忘れたとは言わせない、とばかりに見下ろしてくる赤眼が若干冷たい。

「……子供が、危なかったのでつい」
「つい?」

 さらに眼光が鋭くなる。

「ちゃ、ちゃんと考えて飛び出しましたよ?! あの距離じゃ衛兵たちも間に合わないだろうなぁとか、とりあえず走って投げたら少なくとも子供から気をそらせるだろうなぁとか」
「それだ」

 ジークフリートは呆れ果てたようにため息をついた。頭すら抱えている。

 アルティーティは、『それ』がなにか分からず小首をかしげた。

「子供を助けるのはいい。飛び出したのも悪い判断じゃない。ただお前、自分のことは考えたか?」

(自分のこと……)

「ドレスが汚れるな、とかでしょうか?」
「違う、そうじゃない」

 間髪入れず彼は首を振る。眉間の皺が深く刻まれ、不機嫌そうな表情があらわになる。

「今のお前は自己犠牲に走ってるだけだ」
「ですが、女性や子供、力ないものを助けるのは騎士の務めです。目の前で困っている人がいたら放っておけません」

 彼の威圧感に圧されつつも言い返す。

(あの人ならきっと、そう言うもの)

 胸を張る彼女に、ジークフリートは一瞬目を見開くとさらに眉間の皺を深くした。不機嫌、というよりも悲しそうな表情に見える。

「……子供を助けた上で相手をくじく。そして自分も助かる最善の方法をとる。それが最低限、飛び出す前に考えるべきことだ。今のお前みたいなやつは……いつか大事なものを無くす」

 吐き捨てるように言うと、彼は来た道を戻ろうと歩き始めた。慌ててアルティーティはその背を追う。

 彼が早足なのはいつものことだが、まるでなにかから目を背けたい一心に見えた。
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