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5章.妹君と辺境伯は時を刻む
184.聖女は絶望の涙を流す②
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相も変わらずクリスタは茶会を開いていた。
招く相手はただ一人──リーゼロッテだ。
とはいえこの茶会で出された茶の殆どがリーゼロッテの淹れた茶だ。
最近では茶菓子すら彼女が作ったものだったりする。
(……悔しいけど……どれも美味しいのですわ……)
クリスタは目の前の皿に乗せられた菓子をじっと見つめた。
ふっくらと焼いたパステルカラーの菓子の間にクリームが挟まり、なんとも可愛らしく美味しそうに見える。
下手すると侍女が淹れ、料理人が作ったものよりもリーゼロッテの方が上だ。
ここ数日、リーゼロッテに無理難題をふっかけてはその悉くを完璧にこなされてしまっている。
少し困らせるつもりが、その実力を見せつけられているようで、クリスタは面白くない。
彼女が文句ひとつ漏らさず難なくこなす姿に、難題を出しているつもりの自分の矮小さを思い知らされるような思いだ。
クリスタは何度ほぞを噛んだか分からない。
「あの……クリスタ様……?」
菓子を見つめたまま沈んだ表情のクリスタに、リーゼロッテが心配げに声をかけてきた。
悪意のなさそうな声色が余計にクリスタを苛立たせる。
「……何でもありませんわ。お茶のおかわりをいただけません?」
苛立ちを隠すようにリーゼロッテを追いやると、クリスタは小さく息を吐いた。
彼女といると調子が狂う。
これだけ嫌がらせをしても、自分が冷遇されていることなど何でもないかのように振る舞う彼女の胆力に腹が立つ。
侍女たちが、戸惑いながらも陰で「クリスタ様は聖女様に嫉妬しておられるのでは」と噂されているのも知っている。
それが王族としてみっともない行為であっても。
(……分かっていますわ……でも……)
クリスタはふと、テーブルに這い上がってきた蟻を見つめた。
甘い匂いに誘われてやってきたのだろうか。
その爪の先程もない小さな生物が、菓子に辿り着こうと右往左往している。
(……こうなったら……お菓子に虫が入ってたことにすれば……)
どうにかしてリーゼロッテを困らせたい。
いつもなら侍女に払ってもらうところだが、クリスタはそれを躊躇いつつも摘んだ。
彼女の指の間でもがいているのだろうが、目に入れるのも悍ましいと素早く菓子の間に挟み込んだ。
早くしなければ──その一心で行動した彼女は、背後にできた影に気づかなかった。
「それはいただけないね、クリスタ」
聞き覚えのある声に、彼女は身体を震わせる。
(ま、……まさか……)
「……お、お兄様……っ!?」
ゆっくりと振り返ったそこには、彼女の最愛の兄が呆れた笑みを浮かべていた。
招く相手はただ一人──リーゼロッテだ。
とはいえこの茶会で出された茶の殆どがリーゼロッテの淹れた茶だ。
最近では茶菓子すら彼女が作ったものだったりする。
(……悔しいけど……どれも美味しいのですわ……)
クリスタは目の前の皿に乗せられた菓子をじっと見つめた。
ふっくらと焼いたパステルカラーの菓子の間にクリームが挟まり、なんとも可愛らしく美味しそうに見える。
下手すると侍女が淹れ、料理人が作ったものよりもリーゼロッテの方が上だ。
ここ数日、リーゼロッテに無理難題をふっかけてはその悉くを完璧にこなされてしまっている。
少し困らせるつもりが、その実力を見せつけられているようで、クリスタは面白くない。
彼女が文句ひとつ漏らさず難なくこなす姿に、難題を出しているつもりの自分の矮小さを思い知らされるような思いだ。
クリスタは何度ほぞを噛んだか分からない。
「あの……クリスタ様……?」
菓子を見つめたまま沈んだ表情のクリスタに、リーゼロッテが心配げに声をかけてきた。
悪意のなさそうな声色が余計にクリスタを苛立たせる。
「……何でもありませんわ。お茶のおかわりをいただけません?」
苛立ちを隠すようにリーゼロッテを追いやると、クリスタは小さく息を吐いた。
彼女といると調子が狂う。
これだけ嫌がらせをしても、自分が冷遇されていることなど何でもないかのように振る舞う彼女の胆力に腹が立つ。
侍女たちが、戸惑いながらも陰で「クリスタ様は聖女様に嫉妬しておられるのでは」と噂されているのも知っている。
それが王族としてみっともない行為であっても。
(……分かっていますわ……でも……)
クリスタはふと、テーブルに這い上がってきた蟻を見つめた。
甘い匂いに誘われてやってきたのだろうか。
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「それはいただけないね、クリスタ」
聞き覚えのある声に、彼女は身体を震わせる。
(ま、……まさか……)
「……お、お兄様……っ!?」
ゆっくりと振り返ったそこには、彼女の最愛の兄が呆れた笑みを浮かべていた。
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