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5章.妹君と辺境伯は時を刻む
171.リーゼロッテは再会を果たす②
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「これを私に……ですか?」
エルに呼ばれたリーゼロッテは、差し出されたそれをまじまじと見つめた。
見た目は羊皮紙の束を麻紐で閉じた一冊の大判の冊子だ。
その素っ気ない冊子にそぐわない色素の薄い金の羽ペンが添えられている。
(魔法具の歴史の講義で習った程度ですがこれは……)
リーゼロッテはこくん、と喉を鳴らした。
「うむ。これで遠く離れた相手に文を送れる。文字は自分と相手にしか見えぬ」
エルが胸を張って紹介するのもそのはず。
この道具は、はるか昔の遺物だ。
それこそ歴史の教科書に載るような代物で、遠隔地との通信に水晶が主流となる前に使われていた。
軽量化を実現させた水晶と違い、持ち歩きにやや難があったり、火に弱かったりと弱点が多い。
そのため次第に使われなくなったのだが、まさかこんなところでお目にかかれるとは思いもしなかった。
「ですが、俗世の物は持ち込めないと神官が……」
歴史的な遺物を前に色めく気持ちを抑えエルに問うと、彼女はふむ、と考えるそぶりを見せる。
「俗世、とな。人間皆俗世の産物じゃ。俗物の権化じゃ。捨てたり清めたりしたところで俗など消えぬ。そんな生臭坊主の戯言は無視しておけば良い」
(えぇ……そんな不信心な……だ、大丈夫でしょうか?)
エルの強気な言葉に、一瞬助けを求めるようにテオに視線を送る。
デボラと部屋の端でにこにこと微笑み、なにやら話し込んでいる様子の彼は軽く手を振った。
『聖女付きが聖女に必要だと思った物はなんでも取り寄せた』とテオが言っていたことを考えると、テオが必要と呼び寄せたエルが持ってきた物ならば良い──のだろうか。
「それより、使ってみたいじゃろ?」
若干混乱しているリーゼロッテを他所に、エルはやや強引に話を進める。
その瞳はキラキラと乙女のように輝いていた。
余程この魔法具に興奮しているらしい。
リーゼロッテもまた彼女とは別の意味ではやる気持ちを抑えきれない。
(これを使えばもしかしたらユリウス様に文を送れるかも……)
ふと、講義で習ったことを思い出す。
「……はい。ですが、相手にも対となるこれと同じものがなければならないのでは?」
リーゼロッテの言う通り、文書を送りたい相手にも同じ魔法具がなければ当然送れない。
そこは水晶と同じである。
この魔法具と同じものが二つあるとはとても思えなかった。
しかし、エルは広げた扇子で優雅に微笑みを隠した。
「ほほほ。お主が文を送りたくなるような相手など一人しかおらぬじゃろ? ちゃんと奴の元にも置いてきたから安心するが良い」
「え……でもこれ……」
かなり古いのでは、と言いかけたリーゼロッテの口元に、エルはぱちんと閉じた扇子を当てる。
「こう見えて魔法具や骨董品の収集が趣味での。妾の道具倉庫に眠っていたのじゃ。水晶でも良かったが、声がの」
エルはそう言うと、扇子を再び広げる。
確かに、姿や声が見れる水晶は便利だ。
しかし、水晶を通して話している内容は他人に聞こえてしまう。
この手紙ならば相手と自分にしか字が見えず、情報の秘匿性という点では水晶に優っていた。
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
「試しに一つ書いてみよ」
「え?」
思わず聞き返したリーゼロッテに、エルは妖しい笑みを浮かべる。
「試し、じゃ。魔法具とはいえ長らく使われずに捨て置かれた上、大昔に作られた物じゃからの。不具合があるかもしれぬ。奴もお主からの文を心待ちにしてる故、早う」
「………っ……はいっ……!」
力強く頷いたリーゼロッテに、エルは心底愉快そうに口端を上げた。
エルに呼ばれたリーゼロッテは、差し出されたそれをまじまじと見つめた。
見た目は羊皮紙の束を麻紐で閉じた一冊の大判の冊子だ。
その素っ気ない冊子にそぐわない色素の薄い金の羽ペンが添えられている。
(魔法具の歴史の講義で習った程度ですがこれは……)
リーゼロッテはこくん、と喉を鳴らした。
「うむ。これで遠く離れた相手に文を送れる。文字は自分と相手にしか見えぬ」
エルが胸を張って紹介するのもそのはず。
この道具は、はるか昔の遺物だ。
それこそ歴史の教科書に載るような代物で、遠隔地との通信に水晶が主流となる前に使われていた。
軽量化を実現させた水晶と違い、持ち歩きにやや難があったり、火に弱かったりと弱点が多い。
そのため次第に使われなくなったのだが、まさかこんなところでお目にかかれるとは思いもしなかった。
「ですが、俗世の物は持ち込めないと神官が……」
歴史的な遺物を前に色めく気持ちを抑えエルに問うと、彼女はふむ、と考えるそぶりを見せる。
「俗世、とな。人間皆俗世の産物じゃ。俗物の権化じゃ。捨てたり清めたりしたところで俗など消えぬ。そんな生臭坊主の戯言は無視しておけば良い」
(えぇ……そんな不信心な……だ、大丈夫でしょうか?)
エルの強気な言葉に、一瞬助けを求めるようにテオに視線を送る。
デボラと部屋の端でにこにこと微笑み、なにやら話し込んでいる様子の彼は軽く手を振った。
『聖女付きが聖女に必要だと思った物はなんでも取り寄せた』とテオが言っていたことを考えると、テオが必要と呼び寄せたエルが持ってきた物ならば良い──のだろうか。
「それより、使ってみたいじゃろ?」
若干混乱しているリーゼロッテを他所に、エルはやや強引に話を進める。
その瞳はキラキラと乙女のように輝いていた。
余程この魔法具に興奮しているらしい。
リーゼロッテもまた彼女とは別の意味ではやる気持ちを抑えきれない。
(これを使えばもしかしたらユリウス様に文を送れるかも……)
ふと、講義で習ったことを思い出す。
「……はい。ですが、相手にも対となるこれと同じものがなければならないのでは?」
リーゼロッテの言う通り、文書を送りたい相手にも同じ魔法具がなければ当然送れない。
そこは水晶と同じである。
この魔法具と同じものが二つあるとはとても思えなかった。
しかし、エルは広げた扇子で優雅に微笑みを隠した。
「ほほほ。お主が文を送りたくなるような相手など一人しかおらぬじゃろ? ちゃんと奴の元にも置いてきたから安心するが良い」
「え……でもこれ……」
かなり古いのでは、と言いかけたリーゼロッテの口元に、エルはぱちんと閉じた扇子を当てる。
「こう見えて魔法具や骨董品の収集が趣味での。妾の道具倉庫に眠っていたのじゃ。水晶でも良かったが、声がの」
エルはそう言うと、扇子を再び広げる。
確かに、姿や声が見れる水晶は便利だ。
しかし、水晶を通して話している内容は他人に聞こえてしまう。
この手紙ならば相手と自分にしか字が見えず、情報の秘匿性という点では水晶に優っていた。
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
「試しに一つ書いてみよ」
「え?」
思わず聞き返したリーゼロッテに、エルは妖しい笑みを浮かべる。
「試し、じゃ。魔法具とはいえ長らく使われずに捨て置かれた上、大昔に作られた物じゃからの。不具合があるかもしれぬ。奴もお主からの文を心待ちにしてる故、早う」
「………っ……はいっ……!」
力強く頷いたリーゼロッテに、エルは心底愉快そうに口端を上げた。
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