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5章.妹君と辺境伯は時を刻む

164.リーゼロッテは居心地が悪い①

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 部屋で一息つく間もなく、テオが迎えに来た。

「あの……ありがとうございます。服とバレッタ……」

「ん? ああ、気にしないで。いいものも見れたし」

 開口一番、頭を下げたリーゼロッテに、テオは愉快そうに笑いながら手を横に振った。

(いいもの……?)

 首を傾げる彼女にさらに笑みを深くしたテオは、彼女の耳に顔を寄せる。

「大事に保管しておくからね」

 後ろに控えるヘッダに聞こえない程度の声で囁くと、すぐさま顔を離した。

 ヘッダが軽く咳払いをしたからだろう。

 リーゼロッテは咳払いが聴こえなかった振りをして、テオに微笑んだ。

 彼に預けておけば大丈夫だろう。

 ユリウスとの思い出は保全される。

 それだけで、この誰もがよそよそしく心細い聖殿でもやっていける気がした。

「夕食には少し早いけど、ちょっと紹介しておきたい子がいてね」

 と、彼は悪びれもなくウインクすると城の中の内庭に彼女を案内した。

(子……ということは女性……でしょうか……?)

 一瞬マリーの姿が思い浮かぶが、学院で会話こそあまりしたことがないものの有名だった彼女をリーゼロッテは知っている。

 今更紹介されるとも思えず、戸惑いながらもテオの手に引かれて歩く。

 白薔薇のアーチから伸びる白煉瓦レンガの道の向こう、噴水の前にその人はいた。

 テオが手を降った先にいるのは、歳のころは十ほどの少女だ。

 リーゼロッテよりもやや背丈の低い彼女の黄色のドレスが、腰から可憐にふわりと広がる。

 腰までのびたやや赤みがかった金髪は、ややウェーブがあり夕日に溶け込むように煌めいていた。

 まだあどけない笑みを浮かべる顔が、リーゼロッテの姿を認めた途端にかしこまった空気を纏う。

 青くころりと丸い瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。

「リーゼロッテ様、こちら、第四王女のクリスタ。今年で九歳になる。兄の僕が言うのもなんだけどなかなかの才女だよ。クリスタ、こちらは聖女リーゼロッテ様。仲良くね」

 にこやかに紹介するテオの横で、クリスタはしずしずと淑女の礼をする。

(クリスタ様……お噂に違わず可愛らしい……)

 第一王女から第三王女は全員、国内外の王侯貴族の元に嫁いでいるため、現在この国に残っている王女はクリスタのみだ。

 そのクリスタも、そろそろ婚約者を決める大事な時期なのだが、肝心の国王が臥せってしまい婚約者候補を絞る段階で中断している。

「よろしくお願い致します」

 リーゼロッテが頭を下げる。

 瞬間、クリスタから刺すような視線を感じたリーゼロッテは身体を強張らせた。

(なに……?)

 顔を上げようとも思ったが、まさか目の前の少女から発されるものだと確認したくなくて、リーゼロッテはその視線が解かれるのを待った。

「……こちらこそ、よろしくお願い致しますわ。お兄様、聖女様にその言葉遣いは距離が近すぎるのではなくて?」

 矛先を兄に向けたクリスタに、リーゼロッテは内心ほっとする。

 あの類の視線は記憶にある。

 睨め付けるような殺気にも似た強い視線──敵視だ。

 が、会ったばかりの彼女から向けられる覚えがなく、リーゼロッテは困惑した。

「はは、クリスタはしっかり者だなぁ。極力気をつけるよ」

「そういうことではなく……」

 リーゼロッテとクリスタの心の内を知ってか知らずか、朗らかに笑うテオをクリスタはため息混じりに見つめた。
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