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3章.妹君と少年伯は通じ合う
95.元婚約者は見捨てられた②
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テオの宣言にユリウスとボニファーツ以外は驚き、言葉も出ない。
涼しい顔のボニファーツを、やはり取引を持ちかけたか、とユリウスは苦い顔で見つめる。
「……………は……? いや、そんなわけがない……て、テオドール様は……」
「不真面目で政治にも興味がなくてめったに公の場に出ないくせに女にだらしがない? ついでに長子なのに髪色のせいで継承権も低い?」
うっかり口を滑らせそうになった伯爵に、テオは揶揄うような口調でくすり、と笑った。
「……まあ半分くらいは当たりだよ。信じられないなら王家の紋章も見せようか?」
「そ、そんなもの! 作ろうと思えば簡単に作れるだろう! 偽物め!」
我に返った伯爵は喚き散らす。
その様子に、テオは肩をすくめた。
「信じなくてもいいけどさ、もし僕が本物の第一王子だったらそれ、全部不敬罪に当たるからね。発言には気をつけようね」
「く……っ……貴様らが死ねば本物かどうかなど関係ない……! 誰か! 侵入者だ!」
伯爵は大声で叫んだが、やはり誰も駆けつけてくる気配はない。
駆けつける音すらなく、伯爵の荒い息遣いしか聞こえなかった。
「……うーん、親子だねぇ」
「………………」
いつか見た光景と同じことが繰り返され、思わずテオは感想を漏らした。
彼もまた、身に覚えがあるのかテオから視線を逸らす。
「リデル伯爵、私たちが今、ここにいるということは屋敷内はほぼ制圧が終わっているということだ。呼んだところで誰も来ない」
ユリウスがまた、ボニファーツにしたような説明をすると伯爵は目を白黒させる。
「な、ならば………」
伯爵は机の上にあった禍々しく黒い宝石を手に取ると床に叩きつけた。
黒煙があっという間に広がり、いくつかの小さな渦を巻き始める。
「リーゼ、下がっていろ」
「ユリウス様……」
「……大丈夫だ。心配するな」
不安げな彼女に、ユリウスは優しく微笑みかけた。
その間にも渦は膨らみ続け──。
「ふははははは! 見ろ! 流石に貴様らでも泥人形には勝てまい!」
渦が消える頃には、部屋の天井まで届くほどの巨体に、大小歪な土の塊をつなぎ合わせたような人型の怪物が数体、伯爵を守るように佇んでいた。
むせ返るような土の臭いに、思わずリーゼロッテも顔をしかめる。
「室内で泥人形って……うーん……僕、頭が痛くなってきたな……ユリウス」
「分かった」
テオの呼びかけを待っていたかのようにユリウスは跳んだ。
とはいえ、彼がどこに跳んだのかはリーゼロッテには分からなかった。
むしろ消えたようにすら見えたほどだ。
「無駄だ! いくら英雄といえど特注の泥人形に……あ、れ……?」
「悪いが……泥人形の関節部を繋ぐ魔法は断ち斬らせて貰った」
いつの間にか伯爵の後ろに立っていたユリウスが言うが早いか、泥人形たちは塊ごとに断ち分かれ床に沈みだす。
泥人形たちはなんの命令も下されぬまま、大きな泥団子に姿を変えた。
「そんな……関節を斬っただけではこんなことには……!」
「そりゃ魔力込めて斬ってるもの……あ、そうか。伯爵は成り上がりだから魔力が無いんだったね。分からないのも無理はないか……」
小さくため息をついたテオに、伯爵は痛いところを突かれたように唸った。
どうやらかなりのコンプレックスだったようで、真っ青な顔が一気に元の赤ら顔を上回る赤さを帯びてくる。
「なら、もう一つ教えておいてあげる。閉鎖空間であんな大きな泥人形なんか出したら、倒された時にみんな泥に沈んで窒息死するから今度からやめてね? 今度がいつあるのかは分からないけど」
「……っ……」
憤怒で染まった伯爵は何かを言いかけたが、それを口にすることはなかった。
ユリウスは背後から伯爵の首に剣を当てる。
長身の伯爵の肩に、殺気が込められた剣身がひたり、と止まった。
「貴様はもう終わりだ」
伯爵は自分よりもはるかに小さく、美しいこの少年伯に縮み上がるほどの恐怖を感じていた。
涼しい顔のボニファーツを、やはり取引を持ちかけたか、とユリウスは苦い顔で見つめる。
「……………は……? いや、そんなわけがない……て、テオドール様は……」
「不真面目で政治にも興味がなくてめったに公の場に出ないくせに女にだらしがない? ついでに長子なのに髪色のせいで継承権も低い?」
うっかり口を滑らせそうになった伯爵に、テオは揶揄うような口調でくすり、と笑った。
「……まあ半分くらいは当たりだよ。信じられないなら王家の紋章も見せようか?」
「そ、そんなもの! 作ろうと思えば簡単に作れるだろう! 偽物め!」
我に返った伯爵は喚き散らす。
その様子に、テオは肩をすくめた。
「信じなくてもいいけどさ、もし僕が本物の第一王子だったらそれ、全部不敬罪に当たるからね。発言には気をつけようね」
「く……っ……貴様らが死ねば本物かどうかなど関係ない……! 誰か! 侵入者だ!」
伯爵は大声で叫んだが、やはり誰も駆けつけてくる気配はない。
駆けつける音すらなく、伯爵の荒い息遣いしか聞こえなかった。
「……うーん、親子だねぇ」
「………………」
いつか見た光景と同じことが繰り返され、思わずテオは感想を漏らした。
彼もまた、身に覚えがあるのかテオから視線を逸らす。
「リデル伯爵、私たちが今、ここにいるということは屋敷内はほぼ制圧が終わっているということだ。呼んだところで誰も来ない」
ユリウスがまた、ボニファーツにしたような説明をすると伯爵は目を白黒させる。
「な、ならば………」
伯爵は机の上にあった禍々しく黒い宝石を手に取ると床に叩きつけた。
黒煙があっという間に広がり、いくつかの小さな渦を巻き始める。
「リーゼ、下がっていろ」
「ユリウス様……」
「……大丈夫だ。心配するな」
不安げな彼女に、ユリウスは優しく微笑みかけた。
その間にも渦は膨らみ続け──。
「ふははははは! 見ろ! 流石に貴様らでも泥人形には勝てまい!」
渦が消える頃には、部屋の天井まで届くほどの巨体に、大小歪な土の塊をつなぎ合わせたような人型の怪物が数体、伯爵を守るように佇んでいた。
むせ返るような土の臭いに、思わずリーゼロッテも顔をしかめる。
「室内で泥人形って……うーん……僕、頭が痛くなってきたな……ユリウス」
「分かった」
テオの呼びかけを待っていたかのようにユリウスは跳んだ。
とはいえ、彼がどこに跳んだのかはリーゼロッテには分からなかった。
むしろ消えたようにすら見えたほどだ。
「無駄だ! いくら英雄といえど特注の泥人形に……あ、れ……?」
「悪いが……泥人形の関節部を繋ぐ魔法は断ち斬らせて貰った」
いつの間にか伯爵の後ろに立っていたユリウスが言うが早いか、泥人形たちは塊ごとに断ち分かれ床に沈みだす。
泥人形たちはなんの命令も下されぬまま、大きな泥団子に姿を変えた。
「そんな……関節を斬っただけではこんなことには……!」
「そりゃ魔力込めて斬ってるもの……あ、そうか。伯爵は成り上がりだから魔力が無いんだったね。分からないのも無理はないか……」
小さくため息をついたテオに、伯爵は痛いところを突かれたように唸った。
どうやらかなりのコンプレックスだったようで、真っ青な顔が一気に元の赤ら顔を上回る赤さを帯びてくる。
「なら、もう一つ教えておいてあげる。閉鎖空間であんな大きな泥人形なんか出したら、倒された時にみんな泥に沈んで窒息死するから今度からやめてね? 今度がいつあるのかは分からないけど」
「……っ……」
憤怒で染まった伯爵は何かを言いかけたが、それを口にすることはなかった。
ユリウスは背後から伯爵の首に剣を当てる。
長身の伯爵の肩に、殺気が込められた剣身がひたり、と止まった。
「貴様はもう終わりだ」
伯爵は自分よりもはるかに小さく、美しいこの少年伯に縮み上がるほどの恐怖を感じていた。
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