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2章.妹君と少年伯は互いを知る

41.妹君は浮き足立つ②

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 市内に一歩足を踏み入れれば、先ほどまでは聞こえなかった喧騒が耳に飛び込んでくる。

 大通りには背の高い建物から低い掘っ建て小屋まで商店がずらりと立ち並ぶ。

 活気ある客引きの声と、行き交う人たちで往来は賑わっていた。

 王都と比べてしまうとやや雑多な印象を受けるが、独特な空気感がリーゼロッテの心を浮き立てた。

「さて、どこへ行きたい」

「え? あ、あの……ユリウス様のご用事はよろしいのですか?」

「元々、今回は商人から話を聞くのが目的だったからな。リーゼの買い物のついでだとでも思ってくれ」

 そう言うと彼は、返事を促すようにじっと彼女を見つめた。

 しかし急に言われても初めて来た場所で行きたい店を言う方が難しい。

「ええと……では、手芸品……糸を取り扱っているお店があればそちらに」

「わかった」

 少々難しい顔になってしまった彼女に、ユリウスはふっ、と頬を緩ませた。

 思わず見惚れてしまうほどの微笑みに、彼女の胸がどきりと音を立てる。

 未だに彼の微笑みは心臓に悪い。

 春の陽気はおだやかで散策にはもってこいだった。

 華やかな服装の人々が行き交い、その側を馬車が走る。

 王都では見たこともない珍しい商品を取り扱う店に、新鮮でどこか懐かしく、つい見入ってしまう。

 歩きながらそんな彼女を、ユリウスも穏やかに見守る。

 彼の生暖かい眼差しに気づき、リーゼロッテは耳まで赤くして俯いた。

「……すみません」

「いや、いい。気にするな。馬車にさえかれなければ、好きなように振る舞えばいい」

 リーゼロッテは痛いところを突かれたように小さく呻いた。

 僅かに顔を上げると、ユリウスが悪戯な笑みを浮かべている。

(ユリウス様ったら……もう、意地悪だわ)

「気を付けます」と蚊の鳴く声で言う彼女に彼は「そうしてくれ」と言うとゆっくり歩き出した。

 歩調を合わせた彼の横を歩きながら、リーゼロッテは改めて思う。

 ユリウスは優しい。優しくて強く、一緒にいると時折ドキドキする。

 彼ともし本当に婚約──その先の結婚ができたなら、きっと片時もそばから離れないのに。

 リーゼロッテは自分の追放者という立場を内心恨めしく思った。
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