ありがとう、さよなら

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貴方が愛していたのは

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"貴方が愛していたのは私じゃなかった"







貴方からの好意には、なんとなく初めから気付いていた


でももしも勘違いだったら


そう思うと簡単に貴方に近づく事はできなかった。




だけど




貴方は私の心にどんどん侵食してきた


私の気持ちとは裏腹に。


ズンズンと奥深くまで踏み込んでくる貴方を


私は拒む事ができなかった






そしていつしか


私は貴方が居なきゃ生きられなくなった






貴方が側に居てくれるなら何でもしようと思った



貴方が求める事には何でも答えた。






それが今後大きな後悔の始まりになるだなんて


その時の私が気付くはずもなかったーー







貴方は綺麗なものが嫌いだった


私があまりにも無知で世間知らずだったから


貴方にこの世界の汚いことを沢山教わった







そして全てを憎むようになった







私が負の感情を表すと貴方は嬉しそうに笑う


貴方が喜んでくれるなら、貴方以外の全てを嫌おうと思った






そして真っ白だった私の心は漆黒へと染まっていったーー







日に日に貴方の束縛と嫉妬は強まっていく一方で




嘘が苦手だった私は、嘘を吐くのがうまくなった



嘘をつかなければ、自分を守ることが出来なかった



然し性根は変わらないらしく


嘘をついていることが苦しくなっていった


隠している事に耐えられなくなっていった




そんなある日私は







"ごめんなさい"





貴方に打ち明けた





貴方は最後のチャンスだから今までついた嘘を


今ここで全部白状しろと、



今言えば全部許す、まだ間に合うと言われた。



その言葉を素直に信じてしまった私は



思い出せる限りの全てを打ち明けた







貴方は私の事を信じなくなった。










そして、




貴方が嫌がるから私はピアノを辞めた


私の声が好みじゃないと言う貴方、私は歌うのを辞めた


大好きだった音楽を全て辞め




貴方が嫌がるから学校も辞めた


貴方以外に作るのを嫌がるから料理もしなくなった


貴方が嫌がるから仕事も辞めた。



貴方と会う時以外にお化粧をすることも


友達や、家族と会うことも





夢も希望も捨て去り



私は貴方が嫌がることの全てを辞めたーーー







それでも貴方が満足することはなかった




1人の自由な時間も、全部奪われていった







軟禁のような生活が続き


私の人生は狂っていった











私は貴方を愛しているから


貴方が求めることは全て答えてあげたいと思った。




だけど、


貴方が愛していたのは私じゃなかった





貴方が愛していたのは





私に愛されている貴方だったーー








貴方の気分を損なう事をすれば

直ぐに他の人の元へ行ってしまう





友達を失い、家族も疎遠で

私にはもう貴方しか残っていないのに





私が貴方の為に何をしても



貴方が私の為に何かをしてくれることはなかった








貴方は何度私を捨てようとしただろう



私はその度に傷つき、何度死を乞うただろう







生きているのが辛かった









まるで其処は生き地獄のようで


息が出来なかった






見えない鉄格子に囚われた私は



その命を断とうと首に手を掛けた






此処でひとり、全てを終わらそう


そう決意した。










"さよなら"





霞んでいく視界、心の中でそっと呟く



すると胸の奥底から何かが込み上げてくるのを感じた









ぽつり。







床に水滴が一粒溢れ落ちた



その音に



ハッと我に返った私は首に掛けていた手を緩める






すると一気に肺まで酸素が送り込まれ、咳き込んだ。



過呼吸になりながらも私は水源へと手を伸ばす






それは頬を伝い落ちた泪であった


そしてそれは堰を切ったかのように溢れ出し


頬から顎へと伝っては


ポタポタと床に水溜りを作っていく






あれ…





目から溢れ流れる滴が止められず、


どうしようもなくなった私は嗚咽を漏らし




その場に泣き崩れたーーー













私は貴方の為に生きようと思った






貴方はそれを求めてはいなかった








貴方を心から愛していた








だけど






貴方が愛していたのはーーーーー






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