竪琴の乙女

ライヒェル

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十章

安らぎの時

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カスピアンが、部屋の外で警護していたラベロアの衛兵に、サリーを呼ぶよう言いつけた。廊下を挟んだ向かいの女官室に居たサリーがすぐにやってくる。
ほどなくして、アンカール国の女官達が食事を運んで来てくれた。
もう時間的には、昼食タイム。
山の中腹にあるこの離宮にも、燦々と太陽の光が降り注ぎ、外気温も上がって来た事から、テラスでの食事を勧められる。

楕円形の広々としたテラスは、どこか懐かしさを感じる空間だった。
籐で編まれた大きなカウチには、ベージュ色の分厚いクッションが敷かれていて、テーブルも同じく籐で編まれた枠にガラス板をはめ込んでいるものだった。
女官がクッションの上で居眠りをしていた猫を追い立てるのを眺めつつ、ふとした疑問が頭に浮かぶ。
私の世界だと、籐製品は、温湿度の高い東南アジアで作られるものだ。なのに、ラベロアと同じく、いわゆる西岸海洋性気候のアンカール国で作られているとは、なんとも不思議な話だ。
「フォレオ達が運搬していた家具の中にも、籐で編まれたものが結構あったよ。この国に、ヤシ科の植物なんてあるの?」
果たしてカスピアンが知っているのかどうかは不明だが、隣に腰掛けた彼に尋ねてみると、意外にもすぐに答えが返って来た。
「我が国は西南側の海にしか面していないが、アンカールは、東南側の海にも面している。材料となる籐は東南の海にある島国から輸入しているはずだ」
世界地図を思い出して納得する。
この世界の地理をしっかり勉強しなければと思いながら、どんどん並べられる豪勢な食事に目を移した。グラスに水を注ぐ女官の手が震えている。彼女の顔を見ると、まだ、15、6歳くらいの新米女官のようだった。
私相手に緊張するはずはないから、やっぱり、この、カスピアンが怖いのかもしれない。
見上げるような長身で屈強な青年が、カウチの背に寄り掛かり、どっしりと座る姿は、そこにいるだけで周りを威圧する。さすがに私はもう慣れたから気にもならないけど、昔は、私もこの人の鋭い目つきや、低い声、ふてぶてしく見える態度にはビクビクしたものだった。
生まれた時から次期国王として育てられた彼は、自分が纏う雰囲気などきっと自覚がないのだろう。
それに、基本、笑顔なんて見せないし、短気。
激怒して怒鳴り散らす姿はまさに、生ける鬼。
言動もぶっきらぼうだから、彼の周りは常に緊張感が漂っているのだ。
ずっと前、私も切り捨てられるかと怯えた記憶がある。
彼に歯向かったり口答えをして、じろりと睨まれ生きた心地がしなかったこともあった。思い返せば、彼は当時、ただ怒って睨んでいただけではなく、私の心を読もうとじっと私を見据えていたのだろうが、当時は、その鋭い眼光を直視出来なかった。
きっとこの若い女官も、なにかヘマをしたら、カスピアンに怒鳴りつけられるのではないかと恐れているのだろう。実際、彼が厳格であることには間違いはないけれど、決して冷たい人じゃない。彼を良く知っている人なら、彼がどれほど温かい心を持っているかは理解している。
そして、私にとっては、世界中で一番優しい、愛すべき人。
「もう、大丈夫です。後は、自分たちでやりますから。ありがとう」
震える両手でグラスを持ち、カスピアンへと差し出そうとした女官に声をかけ、私がそのグラスを受け取った。彼女は、ホッとしたように頬を赤く染め目を伏せる。
配膳を終えた女官達は、一列に並び、奇麗なお辞儀をすると、テラスから下がっていった。

美味しそうな焼きたてのパンに、バターや蜂蜜、ジャムも複数の種類が添えられているし、燻製の肉類、チーズの盛り合わせもかなりのものだ。朝っぱらから豪快に、鶏肉のローストや、グリルした牛肉、根野菜のトマト煮も大きなお鍋にたっぷり。デザートの果物やお菓子類も所狭しと並び、2人分どころか10人分はありそうだ。
やはり、客人をもてなすのに、足りないなんてことは許されないから、これでもかという量を準備するのだろう。

小鳥のさえずる声を聴きながら、日だまりの中での朝食。
時の流れを忘れそうなほど長閑な世界に、数時間前までの逃亡劇が嘘のような気がしてくる。
「美味しそう!カスピアン、何かお皿に取ろうか?」
焼きたてパンの香ばしい香りを、胸いっぱいに吸い込んで、隣のカスピアンを振り返った。
カウチの背に寄り掛かったまま、じっと私を見ていた彼と目が合い、ドキリとしてしまう。
てっきり食卓を見ていると思ってたのに。
厳格な顔立ちは一見怖そうだが、私を見ている彼の目はとても優しい。
意思に反して熱くなる頬に気づかないふりをして、私は返事も待たずに彼のお皿を手に取った。




カスピアンは基本的に好き嫌いもなく、何でもしっかり食べる人だ。兄のユリアスは若干偏食気味で、苦手な野菜などは絶対に目にしたくないとまで言っている。
久しぶりに一緒にいる気恥ずかしさの中、照れを隠すためにも、カスピアンのお皿ばっかりチェックして、空になったらすぐさま追加を盛りつける作業を繰り返した。
またもや空になったお皿に手を伸ばそうとしたら、カスピアンが手で制止したので、ついにもう満腹なのだと判断し、皿から手を放す。
「それじゃ、飲み物ね」
保温用のキルトカバーがかけてあるポットに手を伸ばす。
光沢の美しい白磁のカップに、湯気の立つとろりとした濃いミルクティをなみなみと注ぎこんだ。
零さないように気をつけて、カスピアンの前に置く。
彼はすぐに、カップを手に取り、その半分くらいを飲んだ。
ほんのり甘いミルクティを口に含むと、香り高い茶葉のアロマがふわりと広がった。
カルダモン、クローブとシナモンが入った、私の世界ではチャイティーと呼ばれるものだ。
ピリッとスパイシーだが、蜂蜜との絶妙なバランスでとても美味しい。

なんて、平和なのだろう。
ラベロアの王宮で一緒に食事したことは何度もあるけれど、かなりの確率で、エイドリアンが呼びに来たりと邪魔が入ることが多かった。時間を気にせずにのんびり座っていたことは殆どなかったから、こんなにゆったりとした気分で一緒に居るのは初めてかもしれない。
彼は、本当は国でやらなくてはならないことが沢山あるはず。なのに、私の為に時間を割いてここまで来てくれているわけだから、後でしわ寄せが来るに違いない。国王不在のラベロア王国は、一体どうなっているかと心配になった。
「貴方が国を留守にして、大丈夫なの?」
気になって尋ねると、カスピアンは目を細めて微笑んだ。
「ユリアスに代行させている」
「あ、そっか……じゃあ議会も大丈夫だね」
すっかり記憶から抜け落ちていたが、代理として最適な人、王位継承権一位のユリアスがいたんだった。
「我が国の政治体制については、追々学べばよい。いずれ時期を見て教えてやろう」
私が受けたお妃教育では、学問的知識を中心に学んだだけだし、そもそも、王妃が政治に関わる必要はないというスタンスだったから、ラベロア王国はほぼ絶対君主制という大まかなことしか知らない。
カスピアンはこれから改革に着手するにあたり、私の世界の、国家における政治形態や法律、統治形式を参考にするつもりなのだ。当然、私もラベロアの社会制度全般をきちんと理解しないことには、下手な助言や提案は出来ない。
政治なんて学んだ事はないから、ちゃんと理解出来るまではかなりの時間がかかるだろう。
前途多難であるのは間違いないが、二人で同じ夢に向かって努力することは、大きな喜びであり、決して苦痛ではない。
「おまえにいろいろと話さねばならぬことがあるが……」
カスピアンは空になったカップをテーブルに置くと、じっと私の顔を眺めた。
「エリオットは、ルシアの命で我が国に潜り込んでいた、エティグスの間者だった」
「えっ?エリオットが……?」
にわかには信じられない話に、唖然とした。
「そんな……まさか……」
とても話しやすく気心が知れた相手だと思っていたエリオットが、エティグスの間者。
私が王宮からの脱走を考えていた時、親身になって支えようとしてくれていたと思ったのに。
「そ……そしたら、もしかして……あの船もすでに手配されていたということ……?」
漁船だというのに、やたら奇麗で、客室もいかにも誰かのために準備されていたような感じだった。港で直談判して乗せてもらったと思ったが、実際は違ったのか。
私はハッとしてカスピアンを見た。
「船に乗っている時、嵐になったの。お茶をもらったら、ものすごく眠くなって、目が覚めたら、エヴァールの離宮にいて……もうエリオットの姿はなくって……沈没しそうになった船から、偶然ルシア王子が救出してくれたって聞いてたけど……」
カスピアンは苦々しい顔で首を振った。
「それも事実とは違うばずだ。確かに、天候は悪かったのだろうが、もともと、その晩におまえをルシアに引き渡す予定だったに違いない。おまえは大方、眠り薬の入った薬湯を飲まされたのだろう」
「眠り薬……」
だから、あんなに大荒れの海で私は眠り続けていたのか。
いつ、エヴァールの離宮に運び込まれたのかさえ、全く記憶がないのは、そのせいだったのか。
命の恩人だからと、ずっとルシア王子に遠慮していたことを思い出すと、騙されていたという事実にショックを受ける。しかも、信頼していたエリオットが、まさか、ルシア王子の手下だったなんて。
全く気づかなかったことが悔しい。
私に同情し、心配してくれていたように見えたのに。
思い返せば、確かに腑に落ちないことはいくつかあった。
腹立たしい思いの中、エリオットを憎むことが出来ない自分に気づいていた。彼は、己の主に忠実な部下であり、その指令に従っただけだ。私を傷つけようとか、陥れようという気持ちはなかったはず。それに、この私自身が、王宮を出る手助けをお願いした張本人だ。ルシア王子の策略に気づかず、自ずから彼等のシナリオに沿って動くようなことをした、私自身に大きな落ち度がある。
今更悔やんでもどうしようもない。
諦めにも似た境地で、ため息をついた。
これから人を信用する時は、もっと気をつけなくてはならない。
いつまでも引きずってはダメだと気を取り直す。


私達の様子を見に来た女官達が、食事が終わったのを確認すると、片付けを始める。
カスピアンに促されて、離宮の中庭のほうへ散歩へ出る事にした。
風が殆ど通らない中庭は、日差しで思ったより温かい。手をつないで、秋色に染まった木々の中を、ゆっくりと歩く。
カスピアンは、私が不在の間に起きた事についても教えてくれた。
サーシャを含むハントリー侯爵一家は、地方へ追放となり、もう王都にはいないこと。
密約を結び不当な取引をしようとしたピエールはまだ投獄中で、後日処分を決めるということ。
軍事パレード、婚儀の延期は、私が怪我をしたためと諸外国には通達しており、私がエティグスに居たという事実は広がっていないらしい。勿論、私の帰国を実現させるために、秘密裏に協力を依頼したアンカール国、シーラ公国とマドレア国の国王や重鎮は真実を知っている。カスピアンはシーラ公国のナタリア妃を通じて、彼女の祖国であるマドレア国にコンタクトを取ったらしい。
今回、多大な協力をしてくれたアンカール国とシーラ公国には、婚儀が無事に終わり一段落したら、私が招待を受けて、この二カ国を公式訪問するという約束をしたとのこと。
「おまえを外遊に出す気は毛頭なかったのだが、致し方ない」
彼は忌々しそうにそう呟いたが、私は割と前向きだった。
フォレオ達アンカール人にもお世話になり親近感があるし、マドレア国の真珠商人達もとても面白そうな人たちだったので、ナタリア妃様への興味もさらに大きくなった。
「粗相のないように気をつけるから、あまり心配しないで」
明るくそう言うと、カスピアンは立ち止まり、眉間に深い皺を寄せて私を見下ろした。
「訪問先で予期せぬ危険に巻き込まれないという保証はない。例え親交国であっても、それは変わらぬのだ」
「でも、私が自分の行動を慎めば、きっと、殆どの危険は防げると思う……」
正直な意見を述べると、もっともだと思ったのか、カスピアンの表情が和らいだ。
「いずれにせよ、しばらく先のことだ。今からあれこれ考える必要はない」
「そうね。まずは、ラベロアに帰ってから……」
大きく頷き、私は彼の背に手を回してぎゅっと抱きついた。
お妃教育の最後の仕上げを済ませて、ちゃんと婚儀を終わらせることが先決。これからスケジュールの仕切り直しとなるわけだが、帰国後どれくらいかかるのだろうか。
「これからまた予定を組み直すのは、大変だよね。本当にごめんなさい。どれくらい時間がかかりそうなの?」
「おまえが無事に戻る事を見越して、婚儀は、今から10日後に執り行う予定で手配してある。軍事パレードはその前日だ」
一ヶ月先くらいになるかと思っていたが、それほど大きな遅れとならないと知りホッとする。
「何が有ろうとも、断じて延期はさせぬぞ」
怒ったように眉をしかめ、じろりと睨まれる。そんなしかめっ面も、愛情のこもる優しい眼差しで全然怖くはない。幸せな気持ちでいっぱいになると、頬がほころんでしまう。カスピアンもやがて穏やかな微笑みを浮かべて、しっかりと私を抱きしめてくれた。
温かく逞しい胸から聞こえてくる、力強い心臓の鼓動は、私の精神安定剤だ。
彼の腕の中にいたら、何も怖くない。
溢れるような愛で包まれて、これ以上はない幸せに満たされた。
「貴方と一緒に、こんなにゆっくりした時間を過ごせて、本当に嬉しい」
コバンザメのようにぴったりくっついている私の様子に、カスピアンの笑う声が聞こえた。
「婚儀が終われば、以前より時間にも余裕が出来る。そろそろ、海沿いの離宮に休暇へ行く準備も始めよう」
その言葉に、大きく頷いて彼を見上げた。
「休暇、とっても楽しみ!」
私達にとっての、いわゆる新婚旅行みたいなものだ。
お忍び休暇だと、護衛や同行者も最小限になると聞いているし、離宮内もかなりプライベートで自由気ままに過ごせるらしいのだ。考えただけで胸がわくわくしてくる。
「カスピアン。私、本当にすごく幸せ」
ほんの二日前まで未来に絶望していたのに、今はもう、天にも昇る心地だった。
彼は深緑色の目を優しく細めて、身を屈める。
「セイラ」
目の前にいる私の存在を確かめるかのように、静かに私の名を呼ぶカスピアン。
私は思い切り背伸びをして、彼の逞しい首に両腕を伸ばした。
失われた時間を埋めるように、何度も口づけを交わす。
彼は、繰り返し愛の言葉を囁いてくれる。
私はきっと、永遠に彼に恋をし続けるのだろう。
時々は喧嘩もするだろうが、一緒に年を重ねれば重ねるほど、彼への愛は深まっていく。
時空を越えて出会った私達。
本来なら出会うこともない、異なる世界の者同士。
それでも、何人にも切り離せない頑丈な絆を結び、永遠に共にありたい。

自分の生まれた世界と完全に決別しても、ずっとこの世界に居たいという確固たる願いを胸に、祈るような気持ちで彼を見上げていた。
彼は目元をうっすらと染め、淡い笑みを浮かべ私をじっと見つめている。
私がさっきからずっと抱きついているから、カスピアンも少し照れてるのかもしれない。意外と照れ屋なのが可愛いのだが、それを言うと不機嫌になりそうなので、あえて口にはしない。
その代わり、手を伸ばして彼の精悍な頬に触れてみる。
変質者と勘違いした、無精髭でざらつきのある頬も、こうして見ると、貫禄があって素敵。
私より年上に見えるし、やけに色っぽい雰囲気がある。
そんなことを考えてドキドキしていると、彼が私の手を取って、手の平に口づけを落とした。満足げに微笑んで、私の髪をゆっくり撫でると、ひとつ大きなため息を零した。
「おまえに聞こうと思っていた事が有る」
一体何だろうかと思って次の言葉を待つ。
「おまえの世界でも、夫婦になる儀式があるのだろう」
頷くと、彼は興味深そうに目を輝かせた。
「どういったことをするのだ。式典や、宴を開くのは同じなのか」
「宗教によって若干は異なるだろうけど、基本的には同じ。信仰する神様の前で誓いを立てて、家族や友人にお祝いしてもらうの。そして、式の後は二人で旅行に行くというのが普通かな」
私の婚儀には、残念ながら、家族や友人は呼べないけれど、アンリとヘレンが親族代わりに来てくれる。きっと彼等も私がラベロアから逃げ出したことを知らされて、とても心配していることだろう。もともと、翌日、彼等が王宮に遊びに来る予定だったのだから。
カスピアンは私の話に頷いた後、何か考えるように黙っていたが、やがて楽し気な微笑みを浮かべて私を見た。
「婚儀の記念に、何か欲しいものはないか。おまえの望むものを言ってみろ」
「えっ……」
びっくりして彼を見上げる。
気持ちは嬉しいが、もう、何不自由無い生活をさせてもらっているし、衣装や宝石も、カスピアンが揃えてくれた物以外に、シルビア様の形見まで譲ってもらっている。
これと言って思いつかず、特にない、と言おうとしたが、彼が私の願いを聞くのを心から楽しみにしている様子に、もう一度考え直す。
何か、一生の思い出になるものはないだろうか。
さっきカスピアンに聞かれたことを思い出し、パッと顔をあげた。
「ある!とても欲しいものが……」
私はドキドキしながら、彼の左手を取って、彼を見上げた。
「私の世界では、結婚したら、二人で結婚指輪というものを交換してはめるの。心臓につながる左手に指輪をはめることで、結婚の誓いをより強いものにすると信じられていてるから。シンプルで、特に飾りもない、ただのリングなんだけど、いつも左手の薬指にはめて……」
そう言いながら、果たして彼に指輪を強制すること自体がどうかと思って、口をつぐんだ。彼は、右手の小指に、王印が刻まれた金のシグネットリングだけをはめている。これは、国王の証だ。彼に、結婚指輪をはめてもらうなんてのは、無理がある気がする。
指輪の話を取り消そうと思った矢先、彼が笑いながら頷いた。
「いいだろう。おまえの世界のしきたりに従うことにしよう」
「本当にいいの?」
私の我が儘に無理して合わせようとしてないかと心配になって聞くと、カスピアンは嬉しそうに微笑み、ぎゅっと私を抱きしめた。
「誓いを形として常に身につけるということは、理に叶っている。おまえの脱走防止にも効き目がありそうだ」
冗談ともつかない言葉に思わず笑い出してしまう。
カスピアンはすっかり私は脱走魔だと決めつけてしまったようだ。
もう、逃げ出すことは絶対にないのだが、信頼を取り戻すには少し時間がかかるかもしれない。
「ありがとう、カスピアン!」
心からお礼を言うと、彼は幸せそうに微笑み頷いた。
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