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第3章
永遠ではない恋
しおりを挟む他愛もない話をしながら歩く帰り道。
日が暮れてから戻ると、宿の門灯の下に立っている男の姿が目に入った。
一瞬、刺客かと思いアウレシアとイルグレンの剣に手がのびかけたが、殺気がない。
よくよく見ると屈強な影はリュケイネイアスのものだ。
「なんだ、びっくりするじゃん。こんなとこでどうしたのさ」
言いながら、アウレシアが警戒を解く。
「遅いから心配した」
「大丈夫だよ。この間から、変な気配はしないし、レギオンの目があるところで、悪さする奴もいないだろ?」
「エギル様が心配してる」
「――ごめんよ。次からは日が暮れる前に戻るよ」
「すまない」
イルグレンも続けて謝る。
「じゃあ、グレン。また明日」
「ああ」
ほんの一瞬、二人の視線が絡み合い、離れる。
イルグレンが扉の向こうに消えるのを見計らって、
「レシア。お遊びなら、程々にしておけ。あとがつらいぞ」
リュケイネイアスが低く告げる。
アウレシアは、その言葉の意味する所が最初わからなかった。
「何それ?」
「あの皇子様には婚約者がいるんだろ」
意味を解すると、アウレシアは小さく笑った。
「レシア?」
「ケイ、親父くさいとは思ってたけど、今の物言いは、完璧に娘の心配をする親父だよ?」
だが、リュケイネイアスは誤魔化されなかった。
「旅はいずれ終わるんだ」
「わかってるさ、そんなこと」
呆れたようにアウレシアはリュケイネイアスを見上げた。
どうやら、世間知らずの小娘のように、浮かれて現実が見えなくなっていると思われているらしい。
「あたしは、あいつとずっと一緒にいようなんて思わないよ」
そんなことは、初めからわかっていることだ。
「だって、グレンは皇子様だもの。一緒になんて、いられるわけないじゃんか」
この恋は、西に着くまでの、お遊びのようなもの。
きっと自分達は、初めて出会った自分とは何もかも違う異性に興味を惹かれただけなのだ。
「わかっていても、気持ちは止められない。
もし、人を選んで好きになれるって言うんなら、あたしは迷わずあんたを好きになったさ、ケイ」
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恋とは、本当に厄介だ。
何もあんな、自分とは何から何まで違う道を行くだろう年下の男に惹かれることもないのに。
「あたしは身分なんて、どうでもいい。好きになるのに皇子も乞食もあるもんか。
永遠の愛なんて求めないよ。気持ちは、変わるもんだからね。
今、好きだから欲しいんだよ。今だけでいいよ。
永遠なんて、そんなもんは要らない」
リュケイネイアスは大きくため息をつき、アウレシアを見下ろした。
「お前は、強い女だな?」
「当たり前だろ。あたしを誰だと思ってるのさ」
「後で泣いたりしないな?」
父親のような物言いに、アウレシアはまた笑った。
「しないよ。ケイはほんとに心配症だなあ」
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