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二百八話 お題:通電 縛り:辛党、内縁、遡及

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 伯父から聞いた話である。伯父は飲む、打つ、買うを一切やらない非常に生真面目な人なのだが、ある時私が、
「伯父さんは子供の頃からそんな真面目だったの」
 と聞いたところ、伯父は、
「まさか。我ながら最低な男だったよ」
 と言った。
「伯父さん、昔は悪い人だったの」
 と私が聞くと、
「あぁ、本当にどうしようもなかった。でも、ありがたいことにやり直すチャンスをもらえたんだ」
 そう言って伯父は話し始めた。
「昔の俺は大の辛党だった。いや、辛党どころじゃないな。あれは完全にアルコール中毒だ。それにギャンブルばかりして借金塗れだったし、そんな俺を見捨てないでずっと側にいてくれた幼馴染とは内縁の関係だった。籍を入れたら遊び辛くなる――そんなどうしようもない理由で、俺は幼馴染と結婚しなかった。俺は幼馴染に金をたかって、暴力を振るって、ある日とうとう誤って殺しちまった。俺は自分が嫌になった。心の底から嫌になったんだ。だから死のうと思った。水を張った風呂に入って、コンセントに繋いでおいた導線剥き出しの電源コードを水に落とした。一瞬で意識を失って、目が覚めると、俺は中学生になってたんだよ」
 私は伯父にとても信じられない、と言った。
「あぁ、俺も未だに何が起きたのかわからないんだ。あまりにも長い夢を見てたのか、感電のショックで俺の意識と記憶が中学生の時まで遡及したのか。まぁなんにせよ人生をやり直す機会を与えられたことが嬉しくて仕方がなかった。俺は今度の人生では絶対に幼馴染を幸せにすると決めて必死に勉強した。悪い遊びは死んでもやらないと心に誓った。そのおかげで、今の生活があるんだよ」
 伯父が話を終えると、伯母があんたそんな馬鹿みたいな話私以外にしないでよ、と言いながら揚げたての天ぷらを持ってきてくれた。
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