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百九十一話 お題:基地 縛り:蒸し焼き、花霞、踵

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 専門学校の同級生から聞いた話である。
「俺、山が嫌いなんだよ。高校生の時に山でひどいもん見ちまったからさ」
 一体何を見たんだ、と私が聞くと彼は話し始めた。
「その時俺は幼馴染と一緒に、幼馴染の飼ってる犬を探してたんだよ。犬小屋に繋いでおいたリードがいつの間にか切れてたらしくてさ。とりあえず散歩コースに沿って探したんだけど見つからなくて、次はどこを探そうってなった時に、幼馴染がもしかしたら秘密基地にいるかもしれないって言い出したんだ」
 秘密基地というのは以前彼が幼馴染と一緒に家の近所の山に作ったもので、幼馴染の犬を連れていったことが何度かあった。彼はすぐに幼馴染と秘密基地に向かったという。
「秘密基地って言っておきながらやたら見晴らしのいい場所に作ったんだよ。そのおかげで春には遠くの方の花霞とかもよく見えてさ。俺と幼馴染のお気に入りの場所だったんだ。お気に入りの場所だったのに」
 秘密基地に着くと、そこには先客がいた。山歩きの服装をした男性で、何かの動物の肉を食べているところだった。
「ここで何してるんですかって聞いたら、そいつ、今朝捕まえた犬を蒸し焼きにして、焼き上がったから食べてるんだ、って言ったんだ」
 男性の足元には幼馴染の犬がつけていた首輪が落ちていた。
「俺が見てる前で、幼馴染はそいつを殴り飛ばして、踵で顔をグチャグチャにつぶしたんだよ。俺はずっとその様子を見てた。ぼーっと、ただ見てたんだ」
 その後彼の幼馴染は逮捕され、男性には重度の障害が残ったという。
「……見たいなぁ、もう一度。秘密基地からの景色を」
 彼がその景色を見ることはきっと生涯ないのだろう、と私は思った。
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