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百八十七話 お題:座長 縛り:宿、垂れ流し、ノウハウ、風圧

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 学生時代に知り合った友人の話である。彼女は大の演劇好きで知り合った時点で既にアマチュア劇団に所属しており、大学卒業後は働いて資金を貯め、自分の劇団を立ち上げたのだが、
「やっぱり段々考えるようになったんだよね。このまま演劇を続けてていいのか、とか、違う道の方が幸せになれるんじゃないか、とか」
 何度考えても答えは出なかった。だが、その答えは意外なところで見つかった。
「知り合いから未来の自分の姿が見られるっていう宿のことを聞いてね。宿のある部屋に一人で泊まって、寝る時に布団を二組敷いておくと空いてる方の布団に未来の自分が現れるって話だったの」
 彼女は体を休めるついでに、その話を確かめてみることにしたという。知り合いに聞いた宿を予約して日中はのんびりとすごし、そして夜になった。
「聞いた通りに布団を二組敷いて、あとは布団に入ってずーっと次の公演のことを考えてたんだけど、そしたら夜中の一時くらいにね」
 部屋の中にすさまじい風が吹いたのだという。あまりの風圧に彼女は思わずかけ布団で顔を覆った。
「三十秒くらいかな、そのくらいの間ゴウゴウ吹いてたよ。でもいきなりぱっとやんじゃって。やっと顔が出せると思ってかけ布団をどけたら」
 空いていたはずの布団に老婆が寝ていた。顔は薄汚れ、服はボロボロで、体から出るあらゆるものが垂れ流しになった悲惨な姿だった。老婆はかすれた声で彼女に、
「えんげきをやめなかったら、こうなるよ」
 とだけ言うと、次の瞬間にはもう姿が見えなくなっていた。
「万が一本当だった時のために電気は点けておいたんだけど、正直消しといた方がよかったかなぁってちょっと後悔したよ。でも、あのぐらい強烈じゃないと決心がつかなかっただろうから、むしろよかったのかも」
 彼女は次の公演を最後に、劇団を解散することを決心したという。
「まぁもし団員で続けたいっていうやつがいれば、教えられることは全部教えて後を任せちゃってもいいかな。と言っても大したノウハウもないけどさ」
 私はなんとか時間を作って彼女の劇団の最後の公演を観に行ったが、彼女の最後を飾るに相応しい素晴らしい舞台だった。
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