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百四十四話 お題:紙鉄砲 縛り:なし

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 職場の先輩の話である。なんでも先輩は老人の幽霊に取り憑かれているのだという。
「子供の頃からずっと俺に取り憑いてるんだ。見た目は茶色の着物を着た爺さんでさ。俺にとっては別に怖いものじゃないんだ」
 私が、俺にとっては、とはどういうことですかと聞くと、
「その爺さんの幽霊な、俺には優しいんだよ。俺が子供の頃に紙鉄砲作って鳴らしてたら頼んでもいないのに撃たれた振りとかしてくれてさ。でも俺にとって害になるやつにはひどいんだ」
 最初に老人の幽霊の犠牲になったのは、先輩の実家に取り立てに来た借金取りだった。当時先輩は中学に上がったばかりで、両親が借金取りに怒鳴りつけられているところをこっそり覗いていたという。
「もう見てるだけで怖くて、俺泣いちまったんだよ。そしたら爺さんの幽霊がとんでもない形相になって、待ってろ、すぐに済むからって言って借金取りに近づいていって、借金取りの頭からキラキラ光る糸みたいなのを抜き取ったんだよ。そしたら」
 借金取りはまるで別人のような顔つきになり、先輩の両親に、
「ここはどこですか? 私は誰ですか?」
 と尋ねたという。
「多分糸みたいに見えたのはその人の記憶なんだと思う。なんでそんなものを人から引き抜けるのかは知らないけど、とにかくそれ以来爺さんの幽霊は俺にとって害になると思ったやつから記憶を引き抜いて何もわからなくしちまうようになったんだ」
 なお先輩が子供の頃、老人の幽霊にいつまで僕と一緒にいるの? と聞いてみたところ、老人の幽霊は死ぬまでだよ、と答えたという。 
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