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九十四話 お題:適職 縛り:バイタリティー、黙契、門標、整理、顰蹙
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転職した元同僚の話である。彼はバイタリティー溢れる男で、もっと厳しい業界で自分を鍛えたいと言っていたため転職自体は不思議ではなかったのだが、転職先が訳のわからないところだった。
「うちは取引先から依頼を受けて、指定された場所に火事を起こすのが仕事なんだよ」
最初それを聞いた時、激務でおかしくなってしまったのかと思ったが、どうやらそうではないようだった。
「もちろん直接放火をするわけじゃない。まぁ詳しいことは企業秘密なんだが、例えばある会社のビルで火事を起こしてほしいって依頼があったらそのビルの門標にちょっとした細工をするのさ。それでおしまい、あとは火事が起きるのを待つだけだ」
そんなことで商売になるのかと私が聞くと、彼は、
「今のところ失敗した依頼はないからな。それに火事の被害の規模もこっちで調整できるし。依頼はほぼ全て燃やすのは建物だけで人に被害は出さないでくれ、って内容だけど、一度だけ全社員を焼き殺してくれって依頼があったらしい。まぁ、それも成功してるんだが」
良心の呵責はないのか、と聞くと、
「まぁ入社する前に身辺の整理を徹底させられたし、やってることがばれたら顰蹙を買うどころの話じゃないのもわかってるよ。でも続けられてるってことは、きっと俺がこの仕事に向いてるってことなんだ」
私は彼にもっと踏み込んだことを言おうとしたが言えなかった。私の会社には社員同士あまり親しくしてはならないという黙契のようなものがあるが、それを無視してしまうほど彼とは気が合った。だがそれでも、これ以上踏み込んでしまったら私自身が彼の会社の標的になるのではないか、と思うと何も言うことができなかった。
「うちは取引先から依頼を受けて、指定された場所に火事を起こすのが仕事なんだよ」
最初それを聞いた時、激務でおかしくなってしまったのかと思ったが、どうやらそうではないようだった。
「もちろん直接放火をするわけじゃない。まぁ詳しいことは企業秘密なんだが、例えばある会社のビルで火事を起こしてほしいって依頼があったらそのビルの門標にちょっとした細工をするのさ。それでおしまい、あとは火事が起きるのを待つだけだ」
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