71 / 302
七十話 お題:悪達者 縛り:一発勝負、二次会
しおりを挟む
ピアニストの友人の話である。彼の技術は素晴らしく、国内のみならず海外でも評価されているほどなのだが、子供の頃から彼をずっと指導し続けてくれた先生からは、
「君はまだまだ自分の技術を見せびらかしているだけで、ピアノで自分の心を表現するということをしていない。それができなければ君は先に行けないだろう」
と言われていた。
「本当にお世話になってる先生だけど、それでも腹は立つよ。心を表現していないとかそんな漠然としたことを言わないで、もっと具体的な改善点を教えてほしいのに」
彼は先生以外に表現力がないと批評されたことはなく、先生の言っていることは間違っているのではないかとすら思ったという。
「とはいえやっぱり何か欠けてるものがあるんじゃないかと思って、あれこれ考えたんだけどわからなくて……でも友達の結婚式に出席したのが突破口になったんだ」
彼は友達から結婚式でピアノを弾いてほしいと頼まれ、一発勝負ながら完璧な演奏をして結婚式場は彼への拍手で包まれた。何気なく彼が式場の入り口の方を見ると、入り口の脇に首が真横に折れた女性が立って拍手をしていた。
「どう見ても死んでる角度で首が折れててこれが幽霊かって思ったんだけど、それより顔がすごくてさ、この程度の演奏? みたいな馬鹿にしきった顔で、それ見て頭に一気に血が上ったんだ」
結婚式が終わり、二次会になっても彼の怒りは収まらなかった。以来彼はピアノの演奏にその時感じた怒りを込めるようになった。その演奏を聴いた先生は、
「初めて君の演奏から君自身のむき出しの心が伝わってきた。よくやったな」
と言ってくれたという。彼はいつか友達の結婚式で見た女性の幽霊を自分の演奏で感動させてやると決意し、日々練習をしているそうだ。
「君はまだまだ自分の技術を見せびらかしているだけで、ピアノで自分の心を表現するということをしていない。それができなければ君は先に行けないだろう」
と言われていた。
「本当にお世話になってる先生だけど、それでも腹は立つよ。心を表現していないとかそんな漠然としたことを言わないで、もっと具体的な改善点を教えてほしいのに」
彼は先生以外に表現力がないと批評されたことはなく、先生の言っていることは間違っているのではないかとすら思ったという。
「とはいえやっぱり何か欠けてるものがあるんじゃないかと思って、あれこれ考えたんだけどわからなくて……でも友達の結婚式に出席したのが突破口になったんだ」
彼は友達から結婚式でピアノを弾いてほしいと頼まれ、一発勝負ながら完璧な演奏をして結婚式場は彼への拍手で包まれた。何気なく彼が式場の入り口の方を見ると、入り口の脇に首が真横に折れた女性が立って拍手をしていた。
「どう見ても死んでる角度で首が折れててこれが幽霊かって思ったんだけど、それより顔がすごくてさ、この程度の演奏? みたいな馬鹿にしきった顔で、それ見て頭に一気に血が上ったんだ」
結婚式が終わり、二次会になっても彼の怒りは収まらなかった。以来彼はピアノの演奏にその時感じた怒りを込めるようになった。その演奏を聴いた先生は、
「初めて君の演奏から君自身のむき出しの心が伝わってきた。よくやったな」
と言ってくれたという。彼はいつか友達の結婚式で見た女性の幽霊を自分の演奏で感動させてやると決意し、日々練習をしているそうだ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
養子の妹が、私の許嫁を横取りしようとしてきます
ヘロディア
恋愛
養子である妹と折り合いが悪い貴族の娘。
彼女には許嫁がいた。彼とは何度かデートし、次第に、でも確実に惹かれていった彼女だったが、妹の野心はそれを許さない。
着実に彼に近づいていく妹に、圧倒される彼女はとうとう行き過ぎた二人の関係を見てしまう。
そこで、自分の全てをかけた挑戦をするのだった。
(完結)私の夫は死にました(全3話)
青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。
私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。
ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・
R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。
夫が正室の子である妹と浮気していただけで、なんで私が悪者みたいに言われないといけないんですか?
ヘロディア
恋愛
側室の子である主人公は、正室の子である妹に比べ、あまり愛情を受けられなかったまま、高い身分の貴族の男性に嫁がされた。
妹はプライドが高く、自分を見下してばかりだった。
そこで夫を愛することに決めた矢先、夫の浮気現場に立ち会ってしまう。そしてその相手は他ならぬ妹であった…
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる