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六十一話 お題:縮こまる 縛り:メチエ
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昔取材した彫刻家の話である。芸術家といえば奇行がつきものだが、彼のそれは狭いところに閉じこもるというものだった。自室に大きなクローゼットを置き、一日12時間以上もその中に閉じこもっているという。私がどうしてそんなに長い時間閉じこもるのですか、と聞くと、
「友達がいるんだよ。彼女は恥ずかしがり屋でね、とても狭くて真っ暗な場所でしか会ってくれないんだ。僕は彼女と話している時が一番幸せでね。君は長い時間と言ったけど僕からしたら全然そんなことはないんだよ。彼女と話していたら時間なんてあっという間にすぎてしまうからね」
もちろんクローゼットの中に彼以外の人間はいない。明らかに彼は精神に異常をきたしているし、また長時間縮こまった姿勢でいるために骨格もずいぶん歪み生活に支障が出ている。しかし彼の奇行を止めようとするものは誰もいない。彼の家族は彼の彫刻家としての名声と収入にしか興味がないし、評論家も、
「体が歪んでしまうほどの長時間、一人体を縮こまらせて暗闇の中にいるという常軌を逸した行為から彼の素晴らしい作品群のアイデアが生じたとするならば、その行為こそが彼のメチエと言うこともできるのではないか」
などと知ったようなことを言うばかりで彼の精神状態や健康状態を心配するということは全くない。かく言う私も彼の奇行を止めようとしなかった一人である。彼は取材が終わるとすぐに自室へと戻っていった。きっとまたクローゼットに閉じこもるつもりだったのだろう、彼の顔に浮かぶ誰よりも幸せそうな表情を見ると、とてももうやめたらどうですか、とは言えなかった。
「友達がいるんだよ。彼女は恥ずかしがり屋でね、とても狭くて真っ暗な場所でしか会ってくれないんだ。僕は彼女と話している時が一番幸せでね。君は長い時間と言ったけど僕からしたら全然そんなことはないんだよ。彼女と話していたら時間なんてあっという間にすぎてしまうからね」
もちろんクローゼットの中に彼以外の人間はいない。明らかに彼は精神に異常をきたしているし、また長時間縮こまった姿勢でいるために骨格もずいぶん歪み生活に支障が出ている。しかし彼の奇行を止めようとするものは誰もいない。彼の家族は彼の彫刻家としての名声と収入にしか興味がないし、評論家も、
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