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三 雷鳴の猫
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(トカゲって……どうしようもない、恐ろしいものだと思ってた、んだけどなぁ)
中にはこういうのもいるのか、と思うと、なんだか自分の中の世界が一つ広がったような、そんな気がした。もっともこんなことで世界を広げたくはなかったが。
「猫……も元気になったみたいだし、そろそろ行こうか、梓」
「う、うん。ちょっと心配だけど、起きられるなら大丈夫かな。元気でね、猫ちゃん」
僕と梓はその場から離れる。猫の姿をしたトカゲが僕達についてくる。
(おい)
『なんにゃ?』
(なんにゃ? じゃない。なんでついてきてる)
『仕方なくにゃ。今のところえーっと、にゃんだったかにゃ、そうにゃ、ザーサイの粥でにしか余の声は聞こえにゃいみたいにゃから』
(楓だ――今度間違えてみろ。二度と起きられなくなるまでくすぐってやる)
冷静に自分の思ったことを振り返ってみると腰が砕けそうになったが、それでも多少の効果はあったらしく、
『うむ、流石にちょっと調子に乗りすぎたにゃ。楓、ごめんにゃさい』
――可愛いと思いそうになってしまった自分をなんとか押しとどめる。けれど僕の心の動きはしっかりと猫の姿をしたトカゲに伝わってしまったようで、
『――ふっ、ちょろいもんだにゃ』
今度はこの猫の姿をしたトカゲを散々こねくり回したい、という欲求に耐えなければならなかった。街中でそんなことをしたら完全に奇異の目で見られてしまう。
『人間というのはまたずいぶんとめんどくさいにゃ。自分を抑えてばかりで、そんにゃんで楽しいのかにゃ?』
もうこいつが頭の中に語りかけてくることは全て無視しよう――僕はそう決意した。
「梓、ちょっとお茶でも飲も――わっ!」
猫の姿をしたトカゲが凄い速さで走ってきたかと思うと、僕と梓の間をすり抜け、正面から梓の体に駆け上った。
「え、え!? 猫ちゃん私達についてきちゃったの!? それに、どうして私こんなに懐かれてるんだろう……困っちゃったなぁ」
確かに困る。こいつが梓にくっついていたらほとんどの店に入れない。
(おい、お前――というか、お前、名前は?)
『にゃまえ? そんなものはにゃい』
(いや、にゃいじゃなくて、どうしてないんだ)
『余はそもそもにゃまえを呼ばれることがにゃいから、そんにゃものは必要にゃかったのにゃ』
猫の姿をしたトカゲの言葉に、一瞬だけ寂しさというか、そういった感情を覚える。
中にはこういうのもいるのか、と思うと、なんだか自分の中の世界が一つ広がったような、そんな気がした。もっともこんなことで世界を広げたくはなかったが。
「猫……も元気になったみたいだし、そろそろ行こうか、梓」
「う、うん。ちょっと心配だけど、起きられるなら大丈夫かな。元気でね、猫ちゃん」
僕と梓はその場から離れる。猫の姿をしたトカゲが僕達についてくる。
(おい)
『なんにゃ?』
(なんにゃ? じゃない。なんでついてきてる)
『仕方なくにゃ。今のところえーっと、にゃんだったかにゃ、そうにゃ、ザーサイの粥でにしか余の声は聞こえにゃいみたいにゃから』
(楓だ――今度間違えてみろ。二度と起きられなくなるまでくすぐってやる)
冷静に自分の思ったことを振り返ってみると腰が砕けそうになったが、それでも多少の効果はあったらしく、
『うむ、流石にちょっと調子に乗りすぎたにゃ。楓、ごめんにゃさい』
――可愛いと思いそうになってしまった自分をなんとか押しとどめる。けれど僕の心の動きはしっかりと猫の姿をしたトカゲに伝わってしまったようで、
『――ふっ、ちょろいもんだにゃ』
今度はこの猫の姿をしたトカゲを散々こねくり回したい、という欲求に耐えなければならなかった。街中でそんなことをしたら完全に奇異の目で見られてしまう。
『人間というのはまたずいぶんとめんどくさいにゃ。自分を抑えてばかりで、そんにゃんで楽しいのかにゃ?』
もうこいつが頭の中に語りかけてくることは全て無視しよう――僕はそう決意した。
「梓、ちょっとお茶でも飲も――わっ!」
猫の姿をしたトカゲが凄い速さで走ってきたかと思うと、僕と梓の間をすり抜け、正面から梓の体に駆け上った。
「え、え!? 猫ちゃん私達についてきちゃったの!? それに、どうして私こんなに懐かれてるんだろう……困っちゃったなぁ」
確かに困る。こいつが梓にくっついていたらほとんどの店に入れない。
(おい、お前――というか、お前、名前は?)
『にゃまえ? そんなものはにゃい』
(いや、にゃいじゃなくて、どうしてないんだ)
『余はそもそもにゃまえを呼ばれることがにゃいから、そんにゃものは必要にゃかったのにゃ』
猫の姿をしたトカゲの言葉に、一瞬だけ寂しさというか、そういった感情を覚える。
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