文明トカゲ

ペン牛

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三 雷鳴の猫

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「ちょ、ちょっと、梓」
「楓、この子すごいね。全然逃げない。もしかして野良猫じゃなくて飼い猫なのかな? でも首輪はつけてないし……」
(いや、野良猫とか飼い猫とかいう以前にそいつは、多分猫じゃないんだけど……)
 とはいえこんなことを堂々と梓に言うわけにはいかない。ただでさえ心配をかけているのにますます心配をさせてしまうことになる。
『おぉ。こっちの人間の胸は中々座り心地がよいにゃあ。よし、これからはこの人間の胸に座って――にゃ? こら、にゃにをする! えーと、平らな胸の人間!』
(誰が平らな胸の人間だ。僕には笹岩楓っていうちゃんとした名前があるんだ。呼ぶのならちゃんと名前で呼べ)
 梓から猫の姿をしたトカゲをひったくりつつ、僕は心の中で思った。
『えーと、なに? 刺身は鰯がえーで? 長い上に珍妙な名前にゃ。お前の親は一体にゃにを思って子供にそんな名前をつけたのか、理解に苦しむにゃ』
(理解に苦しむはこっちの台詞だ……そもそも、なんで頭の中で思ったことを聞き間違えてる? どう考えたってわざとだろう。僕を怒らせたいのか?)
『……ちっ、悟られたか』
 心の中にこいつをできる限り遠くまで放り投げたい、という切実な欲求が湧き上がってくる。それを察知したのか、猫の姿をしたトカゲは慌てたように言い訳を並べる。
『ちょ、ちょっと待つにゃ。さっきのはほんの冗談にゃ。本気にするんじゃにゃい。飽くまでも余は場を和ませようとしただけにゃ。人間の社会では地位が上の者には冗談の素養が求められると聞いたにゃ。だから余はそれを実践しただけにゃ』
(……うん、信用できない。というか、知識がずいぶんとちぐはぐだな)
 こいつは一体どういう風に人間社会の情報を入手したのだろう。聞いた限り、とか文献に書いてあった、とか言っていたが、こいつの持っている知識には明らかに妙な偏りがある。
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