文明トカゲ

ペン牛

文字の大きさ
上 下
18 / 266
二 縛鎖の男

10

しおりを挟む
『こんにちは。君が佐治のやつが気にかけている子だね――なるほど、あいつが目をつけるだけあって中々ややこしいようだね』
 ずいぶんと佐治さんと親しいようだが、特に疑問には思わなかった。これがそう言うなら、僕は全て受け入れるだけだ。
『……ふーん、君、中々素質があるじゃないか。多分大したことのないトカゲなら一人で問題なく対応できるようになるんじゃないか? まぁ、流石に私をどうにかするのは無理だろうけどね』
 声の主が言っていることは正しい。何故正しいのかといえば、声の主が言っていることは全て正しいからだ。
『佐治のやつとはいつかは会わなくちゃいけないけど、今はまだ我慢だな。楽しみは後に取っておけばおくほどいい。それに君がどこまで成長するかも少し興味があるしね。佐治とはまた違った方向でエグくなりそうだよ、君』
 声の主の顔を見る。だが何度見ても顔がよくわからない。一体どうしてしまったのだろうと思いつつ、僕は声の主の顔を見続ける。何の意味もないことはうっすらわかっていたが、それでも僕が今対峙しているものがなんなのか知りたかった。
「あの、すいません。あなた、一体なんなんですか?」
 とりあえずそう尋ねてみると、声の主は楽しそうにハハハハハと笑った。
『そうかそうか! すごいな、自分の意思が戻ってきてる。やるじゃないか、君!』
 この人はお客さんではないし、猛さん夫妻の知り合いでもない。僕の知り合いでもない。そしてほぼ確実に、人間ではない。
『まぁ私のことはいずれ嫌でもわかるよ。佐治のやつに会いに行くのは今ではないけど、そう遠い話でもないんだ』
 声の主は猛さんがいれたコーヒーを美味しそうに飲んでいる。僕はただその様子を見ていることしかできなかった。いっそ掴みかかりたかったが、声の主に触れた瞬間、自分の手がこの世のものではなくなりそうで、恐ろしかった。
『――うん、勘も鋭いし賢明だ。私に手を出した時点で終わりだってきちんとわかっているんだね。大丈夫、今特に何かするつもりはないよ。それじゃあこれでお暇するとしよう。あぁ、これはコーヒーの代金だ。君に預けておくよ』
 そう言って声の主は僕に一万円札を渡してきた。僕はそれを受け取った。声の主はそのままビべリダエを出ていった。
「――あれ、この一万円は」
 僕は猛さんがコーヒーをいれてくれるのを待っていただけなのに、なんで一万円を持っているのだろうか。
「あの、猛さん、この一万円、猛さんのものですか?」
「ん? 一万円? いや、知らないけどどうしたんだい? その一万円、楓ちゃんのじゃないの?」
「違います、気づいたら持っていて……他にお客さんいませんでしたよね?」
「そりゃあ来たら気づくからねぇ……なに、本当に誰のかわからないの?」
「はい……なんだろう、ちょっと怖いですね」
 猛さんだけでなく雪子さんにも聞いてみたが、やはりわからないということだった。僕はどうしたらいいだろうか、と相談し、結局交番に届けるという結論になった。猛さんと雪子さんにお騒がせしてすいませんでした、と謝り、僕はビべリダエを後にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

王子と王女の不倫を密告してやったら、二人に処分が下った。

ほったげな
恋愛
王子と従姉の王女は凄く仲が良く、私はよく仲間外れにされていた。そんな二人が惹かれ合っていることを知ってしまい、王に密告すると……?!

未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。 しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。 うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。 クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

処理中です...