文明トカゲ

ペン牛

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十 文明と影

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「……アンタが」
 佐治さんは呆然とした顔をしていた。きっと僕の顔も、同じような顔なのだろう。
「アンタが本当にやるなんて、アタシ思ってなかった」
「――僕もです」
 僕は何故地蔵を砕くことができたのだろうか。法山に対する怒りと憎しみが理性を上回ったから? いいや、違う。わかってしまったからだ。地蔵を砕けない僕を見てしまえば、佐治さんが法山を許すしかなくなるのが、わかってしまったからだ。
(だから僕だけは、いや、僕だけが)
 自分の倫理を捨ててでも法山を蹂躙し、佐治さんが守り続けた怨念を肯定したいと、そう思った。
 佐治さんは銃を持った手をだらりと下ろした。
「……わかってたつもりだったのに、本当に何も、何一つ、変わらないのね、アタシも、この世界も」
 佐治さんの両目から大粒の涙が零れ落ちる。膝をつきそうになる佐治さんを――僕は渾身の力で支えた。
「佐治さん。また一緒に温泉に行きましょう」
「……は?」
「温泉だけじゃなくて、美味しいものも食べに行きましょう。綺麗な景色を見に行くのもいいし、それに僕、もう少しでお酒が飲めるようになるんです。どんなお酒が美味しいのか教えてください」
 佐治さんは泣きじゃくりながら、
「そんなこと……そんなことしたって、救われるわけじゃないでしょうが」
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