265 / 266
十 文明と影
22
しおりを挟む
「……アンタが」
佐治さんは呆然とした顔をしていた。きっと僕の顔も、同じような顔なのだろう。
「アンタが本当にやるなんて、アタシ思ってなかった」
「――僕もです」
僕は何故地蔵を砕くことができたのだろうか。法山に対する怒りと憎しみが理性を上回ったから? いいや、違う。わかってしまったからだ。地蔵を砕けない僕を見てしまえば、佐治さんが法山を許すしかなくなるのが、わかってしまったからだ。
(だから僕だけは、いや、僕だけが)
自分の倫理を捨ててでも法山を蹂躙し、佐治さんが守り続けた怨念を肯定したいと、そう思った。
佐治さんは銃を持った手をだらりと下ろした。
「……わかってたつもりだったのに、本当に何も、何一つ、変わらないのね、アタシも、この世界も」
佐治さんの両目から大粒の涙が零れ落ちる。膝をつきそうになる佐治さんを――僕は渾身の力で支えた。
「佐治さん。また一緒に温泉に行きましょう」
「……は?」
「温泉だけじゃなくて、美味しいものも食べに行きましょう。綺麗な景色を見に行くのもいいし、それに僕、もう少しでお酒が飲めるようになるんです。どんなお酒が美味しいのか教えてください」
佐治さんは泣きじゃくりながら、
「そんなこと……そんなことしたって、救われるわけじゃないでしょうが」
佐治さんは呆然とした顔をしていた。きっと僕の顔も、同じような顔なのだろう。
「アンタが本当にやるなんて、アタシ思ってなかった」
「――僕もです」
僕は何故地蔵を砕くことができたのだろうか。法山に対する怒りと憎しみが理性を上回ったから? いいや、違う。わかってしまったからだ。地蔵を砕けない僕を見てしまえば、佐治さんが法山を許すしかなくなるのが、わかってしまったからだ。
(だから僕だけは、いや、僕だけが)
自分の倫理を捨ててでも法山を蹂躙し、佐治さんが守り続けた怨念を肯定したいと、そう思った。
佐治さんは銃を持った手をだらりと下ろした。
「……わかってたつもりだったのに、本当に何も、何一つ、変わらないのね、アタシも、この世界も」
佐治さんの両目から大粒の涙が零れ落ちる。膝をつきそうになる佐治さんを――僕は渾身の力で支えた。
「佐治さん。また一緒に温泉に行きましょう」
「……は?」
「温泉だけじゃなくて、美味しいものも食べに行きましょう。綺麗な景色を見に行くのもいいし、それに僕、もう少しでお酒が飲めるようになるんです。どんなお酒が美味しいのか教えてください」
佐治さんは泣きじゃくりながら、
「そんなこと……そんなことしたって、救われるわけじゃないでしょうが」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる