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十 文明と影
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「……何を、言ってるんだ?」
佐治さんが、女? それは一体、どういうことだ?
「君はこう思っていたはずだ。佐治は男に恋する男で、そんな自分自身を受け入れて生きている――と。違うんだよ。全く逆だ。佐治は自分自身のことを一切! 微塵も! 何一つ! 受け入れることなどできなかったんだ。自分を受け入れることができず、かといって死ぬこともできなかった。ならどうすればいい? ――そうだ。自らが嘘になって生きていくしかない」
佐治さんが銃を拾い上げ、法山の顔に押し当てて引き金を引いた。パン、という気の抜ける音。銃口から白い鳩が懸命に身をよじって抜け出し、空へと飛び立っていく。
「――実に平和だ。素晴らしい」
佐治さんは飛んでいく鳩を目で追いながら、塩の柱のように崩れ落ちる。駆け寄りたかったが、恐ろしくて足を前に出すことができない。僕は一体何を恐れている? 法山の存在か? 力か? それとも、物理的な力など何一つないはずの、法山が投げつけてくる真実をこそ、
「佐治の肉体は美しい。それは君も同意してくれるだろう。だが、その美しさは男としての美しさだ。佐治が求める女としての美しさではない。そしてそんな肉体の中に在るには、佐治の魂はあまりにも女だった――もしも佐治に、自分はそのように生まれた女なのだと自分の運命を認められるだけの強さがあれば、ここまで私が惹かれることはなかっただろう。佐治はね。今の今まで、自分は男が好きな男なのだと死に物狂いで心に言い聞かせ、魂を騙し偽って生きてきたんだ。そうしなければ生きられないほどの、可愛くて可愛そうな女だったんだよ」
佐治さんが、女? それは一体、どういうことだ?
「君はこう思っていたはずだ。佐治は男に恋する男で、そんな自分自身を受け入れて生きている――と。違うんだよ。全く逆だ。佐治は自分自身のことを一切! 微塵も! 何一つ! 受け入れることなどできなかったんだ。自分を受け入れることができず、かといって死ぬこともできなかった。ならどうすればいい? ――そうだ。自らが嘘になって生きていくしかない」
佐治さんが銃を拾い上げ、法山の顔に押し当てて引き金を引いた。パン、という気の抜ける音。銃口から白い鳩が懸命に身をよじって抜け出し、空へと飛び立っていく。
「――実に平和だ。素晴らしい」
佐治さんは飛んでいく鳩を目で追いながら、塩の柱のように崩れ落ちる。駆け寄りたかったが、恐ろしくて足を前に出すことができない。僕は一体何を恐れている? 法山の存在か? 力か? それとも、物理的な力など何一つないはずの、法山が投げつけてくる真実をこそ、
「佐治の肉体は美しい。それは君も同意してくれるだろう。だが、その美しさは男としての美しさだ。佐治が求める女としての美しさではない。そしてそんな肉体の中に在るには、佐治の魂はあまりにも女だった――もしも佐治に、自分はそのように生まれた女なのだと自分の運命を認められるだけの強さがあれば、ここまで私が惹かれることはなかっただろう。佐治はね。今の今まで、自分は男が好きな男なのだと死に物狂いで心に言い聞かせ、魂を騙し偽って生きてきたんだ。そうしなければ生きられないほどの、可愛くて可愛そうな女だったんだよ」
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