文明トカゲ

ペン牛

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十 文明と影

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 法山が僕の携帯に送ってきた住所を調べると、そこはどうやら川沿いの空き地のようだった。交通手段を調べると、電車よりもバスで向かった方がよさそうだった。
(行かなければ)
 そこに待っているものがなんなのか。死であるならまだいい。だがもし、自分の想像すら及ばない永劫の災禍が待ち受けているのなら――
(あぁ、だとしても)
 脳裏に浮かんでしまったのだ。一緒に温泉に行った時の、佐治さんの微笑みが。ならば、あの微笑みを、もう一度見るために。
「――二人とも、ごめん。急な用事ができた」
 僕の言葉に、梓と真奈さんはぽかんとした表情を浮かべた。無理もないだろう。こんな状況で急用ができたなどと言っては逃げ出すための方便としか思えない。
「……せんせー、それ本気で言ってる?」
 刺すような真奈さんの視線。だが今の僕に、それに対して怯むことは許されていない。
「あぁ、本気だよ」
 一瞬だけ真奈さんの顔に怒りが浮かび――すぐに何かに気がついたようなそれへと変わった。あぁ、この子は本当に、どこまでも聡明だ。
「やだ……せんせー、やだ、やだよ」
 真奈さんは震える手でそっと僕の服の袖をつまんだ。つまむ指に力は入っていない。その指を外すのに振り解くというほどの動作も必要ないだろう。
 ――立ち上がる。案の定、真奈さんの指は袖に引っかかることすらなく、あっさりと解けた。
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