文明トカゲ

九 望遠の楯

２８

「だって、せんせーが誰かを好きになるのなんていつになるかわからないし、私も梓さんもせんせーのこと諦められそうにないし、それだったらもう一緒に生活した方がいいんじゃないかなって」
「三人で……楓は、どう思う？」
（梓と真奈さんと僕で一緒に暮らす、か）
　夢物語のように思われたその生活は、心の中で想像するやいなや、まるで早回しの映像のように精緻に組み上がっていった。
「――悪くないんじゃないか、と思う。梓は？」
「そう、だね……真奈ちゃん、家事は得意？」
　梓の質問に、真奈さんがばつが悪そうな顔をする。
「……苦手、です。でも、上手くなりますから！」
「だ、大丈夫だよ。できることは私がやるから」
「いえ、そんな！　梓さんばかりに負担をかけるわけにはいきません！」
　どうやら梓と真奈さんの中では三人が一緒に暮らすのはもう既定路線のようだ。
（……僕ももっと家事が上手くならないとな）
　人と一緒に生活すると多くの場合、トラブルになるという。生活習慣の違いはもちろんだが、家事の分担が問題になることもよくあると聞いた。なら僕もなるべく二人に負担をかけない人間にならなければ。