文明トカゲ

九 望遠の楯

２５

「……あー、その、二人とも、また興奮してるみたいだから、落ち着いてくれないかな？」
　二人は僕に視線すら向けてくれなかった。ちょっと傷つく。
「……あ」
　突然、梓が何かに気づいたような声を出した。
「……なんですか？」
「その、すごく下らないことなんだけど……私、人とここまで激しく言い争ったの、初めてだなぁ、って」
　そう言うと梓は恥ずかしそうに目を伏せた。それを見て毒気を抜かれたのか、真奈さんの体から力が抜ける。
「なんていうか……梓さんってほんっとにいい人なんですね。私、ちょっと感動してます」
「え、そんなことないよ。それを言ったら真奈ちゃんだってまだ高校生なのにすごくしっかりしてるじゃない……私の高校生の頃なんて、全然駄目だったから」
　二人は一瞬見つめ合い、そして楽しそうな笑顔を浮かべた。
「……高校生っていえば、梓さん、せんせーの高校生の時の話、聞かせてくれませんか？　
　梓さんから見たせんせーがどんなだったか、聞きたいです」
「うん。いいよ。楓は……今よりもかなり、近寄り難かった、と思うな」
「え。今より？　今だって近寄り難いのに？」
「うん。私も当時よく友達になれたなぁって思うよ」
　二人は揃って僕の方を見て、おかしそうに笑う。この状況はなんだか、いたたまれない。