文明トカゲ

ペン牛

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八 懐旧の澱

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(これは……効くなぁ)
 それなりの高さから落ちてくるために、お湯が右肩に伝える衝撃は予想を超えて強いものだった。
(右肩、痣にならないよな……?)
 少し不安になったので、痛みが出てくる前にお湯を当てる箇所を左肩に変えた。心地よい衝撃が左肩を通り抜けて体全体に伝わる。
(これなら、心地いいだけじゃなくて刺激もあるから、寝る心配はない)
 ふと浴室の一番奥、ガラス張りになっている方を見ると、広々とした露天風呂の様子が目に飛び込んできた。
(もう少ししたら、行ってみよう)
 それから僕はしばらくの間、左右の肩にお湯をあて続けていた。浴室の中の時計を見ると十分ほど経っている。ここを使いたい人もいるだろうし、そろそろ露天風呂に行った方がいいだろう。
 足を滑らせないよう慎重に立ち上がり、浴室と露天風呂を隔てる引き戸まで歩いていく。引き戸を開けて外に出ると、足にヒヤリとした石の感触。浴室の中では忘れてしまうが、今は真冬なのだ。
(冷たいな――早く湯船に入ろう)
 慌てて、しかし転ばないよう注意しつつ露天風呂の湯船に向かうと、ゆっくり体を沈める。
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