文明トカゲ

八 懐旧の澱

２２

「……その、佐治さん、法山は、一体何が目的なんでしょうか？」
「それ、考える意味あんの？」
「いや、もし法山の目的がわかれば、もしかしたら少しでも状況をよくできるかも――」
「それって、なんで自分が不治の病にかかったのか、とか、なんで自分の乗ってる飛行機が落ちたのか、とか考えるのと一緒じゃないの？」
（……だって、耐えられないんだ）
　絶対的な絶望を突きつけられても、いや、突きつけられたからこそ、何か希望があるのだと、何か活路があるのだと考えなければ恐怖に圧壊させられる。
「……僕だって、わかってるんです。本当は法山に対抗する手段なんてないんだって。何をしたところで、どれだけ手を尽くしたところで無駄なんだって――！！　でも、僕は弱いから、それを受け入れてしまったら、怖くて、指一本動かせなくなる……」
　沈黙が僕と佐治さんを包み込んだ時間は、長いようでいて実際は数分にも満たなかったのだろうと思う。
「――そろそろ行かない？　アタシ、温泉入りたいんだけど」
　そう言って佐治さんは立ち上がった。カツ丼の丼には米粒一つ残っていなかった。
「あ……わかりました」
　歩き出した佐治さんを追いかける。佐治さんは食堂の出口で僕の分も会計を済ませてくれていた。