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六 完全の家
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ちらりと梓の方を見る。目を人間の限界を超えて見開き、笑うように、しかし笑顔とは根本的に違う形で全ての歯を剥き出しにしていた。能面の真蛇の顔にそっくりだ。
「梓を抱き締めたことは何回かありますが、温かくて柔らかくて、とても抱き心地がいいんです。寒い日に布団の中で抱き締めて寝られたら、きっと幸せだろうと――」
「――かあああああああああええええええええでえええええええええ!!」
夜叉の絶叫のような声だった。思わず固まってしまう。視線の先の迷塚さんも固まっている。梓は顔を真蛇のそれから死んでいるような無表情に変え、無言で店員さんを呼ぶボタンを押した。
沈黙に支配されている。店員さんがやってくると、梓は感情の一切伺えない声で、
「ジャイアント南国フルーツパフェをお願いします」
と注文をした。その声でやっと、僕達の間に漂う空気に亀裂ができたように思えた。
「梓……ごめん」
「あ~、うん、ごめんよ、あずさん。ちょっと調子乗りすぎたわ」
流石の迷塚さんも怖かったのか、素直に梓に謝っている。梓はじろりと迷塚さんを睨んで、
「先輩、さっきのジャイアント南国フルーツパフェ、奢ってください」
「え、いや、なんでよ。そりゃあ調子に乗りすぎたとは思うけどさ、でも私ちゃんと謝ったんだし――」
「奢ってください」
「はい」
「梓を抱き締めたことは何回かありますが、温かくて柔らかくて、とても抱き心地がいいんです。寒い日に布団の中で抱き締めて寝られたら、きっと幸せだろうと――」
「――かあああああああああええええええええでえええええええええ!!」
夜叉の絶叫のような声だった。思わず固まってしまう。視線の先の迷塚さんも固まっている。梓は顔を真蛇のそれから死んでいるような無表情に変え、無言で店員さんを呼ぶボタンを押した。
沈黙に支配されている。店員さんがやってくると、梓は感情の一切伺えない声で、
「ジャイアント南国フルーツパフェをお願いします」
と注文をした。その声でやっと、僕達の間に漂う空気に亀裂ができたように思えた。
「梓……ごめん」
「あ~、うん、ごめんよ、あずさん。ちょっと調子乗りすぎたわ」
流石の迷塚さんも怖かったのか、素直に梓に謝っている。梓はじろりと迷塚さんを睨んで、
「先輩、さっきのジャイアント南国フルーツパフェ、奢ってください」
「え、いや、なんでよ。そりゃあ調子に乗りすぎたとは思うけどさ、でも私ちゃんと謝ったんだし――」
「奢ってください」
「はい」
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