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五 似姿の恋
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「――やあ、久しぶり」
見覚えのない男性だった。背は僕よりもやや高い。穏やかそうな、異様に好感を覚える容姿だ。
「これを探していたんだろう?」
紙袋が差し出される。僕は携帯をしまうと、それを受け取った。
「初めて会った時よりもずいぶんよくなったね。私の姿がはっきり見えている」
初めて会った時? それはおかしい。僕にはこの男性と会った記憶など――
「――あぁ、やっぱり懐かしい顔が二人も揃うと、気分がいいな」
男性の声は、あまりにも腥かった。何かに押し出されるように、右腕から銀色の液体が滴り落ちるのを感じた。
「……あなたは彼らに何をしたんですか」
質問は自制のためのものだったが、ほとんど意味を為していない。目の前の男性がなんであろうと、何を言おうと、どうせすぐに僕か僕のなりそこないになるのだ。
「海野猛と海野雪子を殺されたいのかい」
――心臓が凍りついた。
「悪いけど、もう少しだけ先なんだ。待ち切れなくて、顔を見に来ただけなんだよ。だから――私のこともまだ覚えなくていい」
「――え?」
目の前の暗さに驚く。携帯のライトで照らしていたはずなのに、と右手の方を見ると、右手は知らない紙袋を持っている。
(これは……佐治さんの言ってたいぶりがっこか? でもどうして僕はこれを持ってるんだろう。確かこれを探していたはずなのに)
とりあえず紙袋を左手で持ち、右手で携帯を取り出すと、ライトを点ける。
――以前にもこれと似たようなことがあったはずなのだが、不自然なほど気にならなかった。
五 似姿の恋 終了
※次回の更新は来年の一月を予定しています。
見覚えのない男性だった。背は僕よりもやや高い。穏やかそうな、異様に好感を覚える容姿だ。
「これを探していたんだろう?」
紙袋が差し出される。僕は携帯をしまうと、それを受け取った。
「初めて会った時よりもずいぶんよくなったね。私の姿がはっきり見えている」
初めて会った時? それはおかしい。僕にはこの男性と会った記憶など――
「――あぁ、やっぱり懐かしい顔が二人も揃うと、気分がいいな」
男性の声は、あまりにも腥かった。何かに押し出されるように、右腕から銀色の液体が滴り落ちるのを感じた。
「……あなたは彼らに何をしたんですか」
質問は自制のためのものだったが、ほとんど意味を為していない。目の前の男性がなんであろうと、何を言おうと、どうせすぐに僕か僕のなりそこないになるのだ。
「海野猛と海野雪子を殺されたいのかい」
――心臓が凍りついた。
「悪いけど、もう少しだけ先なんだ。待ち切れなくて、顔を見に来ただけなんだよ。だから――私のこともまだ覚えなくていい」
「――え?」
目の前の暗さに驚く。携帯のライトで照らしていたはずなのに、と右手の方を見ると、右手は知らない紙袋を持っている。
(これは……佐治さんの言ってたいぶりがっこか? でもどうして僕はこれを持ってるんだろう。確かこれを探していたはずなのに)
とりあえず紙袋を左手で持ち、右手で携帯を取り出すと、ライトを点ける。
――以前にもこれと似たようなことがあったはずなのだが、不自然なほど気にならなかった。
五 似姿の恋 終了
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