文明トカゲ

ペン牛

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四 照魔の鏡

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「……なんで、私だけこんな目に遭うんだろう、って思ってたの」
「……うん」
「怪我とか病気とか、不幸なことは他にも色々あるけど、誰にも相談できない、相談したとしても誰にも信じてもらえない、そんな目に、なんで私が、私だけが遭わなきゃいけないんだって、ずっと思ってた」
「……うん」
「でも、私だけじゃなかった。せんせーもずっと同じような、ううん、私よりも辛い目に遭ってきたんだよね」
(……僕が、真奈さんよりも辛い?)
「私はあいつに脅されてただけだけど、せんせーは、その、目には見えない大切なものを、色々、食べられたんでしょう?」
「――いや、それは」
「わかるよ! ちょっと話しただけでもわかる。せんせー、本当にいい人だけど、なんていうか、心のあちこちが欠けてるってわかるもん。それもすごく不自然な欠け方。だから、私なんかより、せんせーの方がずっと、辛いよ」
 思わず手を握りしめる。その感覚がなければ、自分というものを見失いそうだったからだ。
「……せんせー、私、私ね」
 僕の見ている前で、真奈さんの頬を涙がつたった。
「……私、あんなやつと結婚なんかしたくない! あんなやつに連れていかれるのなんて……嫌だよ……」
 それは、自分に降りかかった災いへの精一杯の抵抗なのだろうか。真奈さんは目を閉じることなく、大粒の涙をいくつもいくつも零す。
 ――流石にそれを、ただ見ていることはできなかった。
「――せんせー?」
 抱き寄せた真奈さんの体は、僕よりもずっと華奢だった。こんな体で一人恐怖に耐えていたのかと思うと、僕の中の言い表せない何かにヒビが入るようだった。
「ごめん。嫌だったら、やめるよ」
 必死で抑えようとして、それでも抑え切れない啜り泣く声。それが、真奈さんの返答だった。
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