文明トカゲ

ペン牛

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三 雷鳴の猫

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「ニャ――そんな、どうして」
 思わず声に出してしまう。ここでは何もかもが止まっている。それなのに、どうしてニャン太は動いているのか。そもそも、今までどこに行っていたのか。
『ま~ったく急に弾き出されたと思ったら探して入ってくるのも手間とかいい加減にしてほしいにゃ。でもまぁ間に合ったから問題なしかにゃあ』
 心の中は混乱の極みだった。だが僕の心に、確かに希望の光が差した。
(――間に合ってない。僕達は一度あいつに殺されたんだぞ)
『あ~、そうにゃの? それは悪かったにゃ。でも余も全力で頑張って、それでも間に合わにゃかったんだから、笑って許してほしいにゃ』
(お前……そんなの許せるわけが、ないだろ)
 ニャン太のあまりにも気の抜けた態度は正直、腹立たしい。だが、そんなことはどうでもよくなるほどの、圧倒的な安心感があった。
『ん~、にしても困ったにゃあ』
(困ったって、何が――)
『いや~、あそこの黒いモヤモヤ、あれはちょっと厄介っていうレベルじゃにゃくてにゃあ。頭はあんまりよくにゃいみたいなんだけどにゃー。現に余がいきなり入ってきたことにびっくりして止まったし』
(……無理、なのか)
 先程までの高揚が、嘘みたいに醒めていく。けれど、それは仕方のないことだ。そもそも、あれほどのトカゲと関わって、命があることの方がおかしいのだ。
(やっぱり、僕達はもう駄目なのか)
『え、助かるにゃよ?』
(――え? だってお前、さっき、あれは厄介っていうレベルじゃないって)
『うむ。本当は楓達と一緒に逃げ出すつもりだったにゃ。でもあいつ相手にそれは無理だから、余が残ってあいつの相手をするにゃ』
 ――こいつは、何を言っている?
(あいつの相手、って……お前、あいつには勝てないんじゃ)
『もちろん勝てにゃい。でもあいつは楓達に執着してるわけじゃないはずにゃ。他に遊ぶものが見つかればすぐそっちに行くのにゃら、余がその遊ぶものににゃるにゃ』
(お前――そんなの、そんなの認められるわけがないだろう! あいつの遊ぶものって、つまりあいつにいつまでも、いつまでも殺され続けるってことだ! 僕はたった一回で心を折られた! それを、それを――!)
『楓。他に方法はないのにゃ』
(だからって認められない! 誰かを犠牲にして生き残るなんて嫌だ! それにそもそもなんでお前は僕達にそこまで――僕達はついさっき会ったばかりだろう!!)
 ニャン太が、僕の膝の上に飛び乗った。
『う~ん、やっぱり胸のおっきな人間――梓、って名前だったかにゃ? の方が膝の乗り心地もよかったにゃ』
 思わず、僕はニャン太を両手で掴んでいた。
「……こんな時まで、ふざけるな」
 口に出してニャン太に語りかける。そうした方が、少しでも言葉が強く届くような気がしたから。
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