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第三章 嫌われた王子様と呪われた乞食

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「ああ、そうだね。ギスランの所にも、人をやったよ」

 襲われたあの日、全てが終わった頃、様子を見に屋敷を散策した。ギスランは嫌がったが、断行した。死傷者の数はーー思い出すだけで、吐き気がする。殆どが敵だったが、何名か犠牲者が出た。
 その犠牲者達を手厚く弔っていたのが、ゾイデック、つまりノアのところの使用人だったのだ。
 察しの悪い私でも気がついた。攻勢をかけて来たのが、『カリオストロ』の狂信者達だと言うことを。

 だから、ノアを訪ねることにした。事情を知らないのは嫌だったからだ。
 ノアはすぐに教えてくれた。前置きもなしだった。

「お返しをしたのね」

 お返しというのは可愛らしい言い方だ。本来ならば粛清と言われるべきものだ。

「調べ上げたアジトの一つを焼き討ちにしたんだ。その仕返しだろうね。一応、トヴァイスのところと蘭王のところにも人をやったよ」
「体はまだ完全に治ったわけじゃないでしょうに。よく攻勢をかけようと思ったわね……」

 ノアは完全に人の姿を取り戻していた。一見、元気そうに見える。だが、たまに吐息は気怠さを含んでいた。

「王都の問題は王都で片付けたかった」
「ゾイデックには持ち帰りたくない?」
「『カリオストロ』は油断のならない組織だよ。トヴァイスに先行される前に、片をつけたかった」

 言葉の矢を放たれたトヴァイスはむっつりと黙り込んだままだ。
 ぴょんと頭の上にあった獣耳は無くなっているし、尻尾もない。ただ、相当痛みが残っているようで、頭をよく押さえている。
 私は治るどころか悪化しているので、投薬を中断していた。今はどうにか花の下に鬘をつけて、咲き誇る大輪を飾りのように見せている。

「トヴァイスはかなり参っているようね。あの痛み、尋常ではなかったから無理もないけれど」
「……うるさい」
「『カリオストロ』は俺が潰す。司祭も、信者も、首を刎ねる」

 ノアは唇を舌で舐めた。強烈な暴力を秘めた瞳がぎらぎらと輝く。

「もしかしたら、残党が二人を害するかもしれない。そうならないように善処はするけど、もしもの場合がある。そのときは気をつけて」
「……善処と言われてもね。そもそも命を狙われているのは私なのよ」
「分かってる。カルディアが狙われる確率は最も高い。だから、俺の護衛役をテウに貸した」
「テウに?」

 意外な名前が出て来た。ギスランではなく、テウなのか。この間はギスランの屋敷につけていたのに。

「カルディアの従者――いや、騎士はテウだろう? テウに一切を任せるのは当たり前だと思うけれど」
「――、そ、それは」

 私のなかではあいつは従者だ。だが、テウの地位的に従者という呼称は外聞が悪い。そのため騎士と名乗っている。
 貴族が姫君に使えるのは騎士という呼称がいいと相場が決まっているのだ。馬鹿げた慣習だが、ぐちぐち周りに言われるよりまし。

「――いえ、そうね。あいつが運用出来るかは疑問だけど」
「そう? 俺は案外、あの男、食わせ物だと思うけど。死臭がする」
「……あいつにもいろいろあるのよ」

 自殺未遂を行なった男だ。死の匂いに近いのは間違いないだろう。
 ノアはゆっくりと目を瞬き、不思議そうな顔をした。

「でも、ギスランに任せた方が良かったのではないの?」
「拒否された。俺の部下が入る方が場が混乱するって」
「あの出鱈目な護衛がいるからだろう。なんだ、あの眼鏡男」
「イル、よ。ギスランのところの剣奴」

 邪険にしていた癖に、目の前で有能なところを見せつけられ、考えが変わったのだろうか。トヴァイスはイルを気にするような素振りを見せる。

「王国最強の騎士たるヨハンを不意打ちとはいえ降したって男だよね?」
「いや、それは初耳だけど……。というか、ヨハンって、この間領地を返納したヨハン・ハウスベル卿のことよね?」

 先の大戦で、軍部の英雄がザルゴ侯爵やサラザーヌ公爵ならば、騎士として武勲を示したのが、ヨハン・ハウスベルである。
 彼は私の叔父であるバルカス公爵の騎士として剣を振るい、類稀なる才で、騎士達の英雄へと上り詰めた。
 の功績を讃えられ、平民の身でありながら、領地を与えられ、領主として土地を治めた。
 そのまま領主として人生に幕を降ろすと思われていた彼だが、妻の死後、領地を国王に返納し、また騎士に戻ってしまったと聞く。

「ヨハンはマイク殿下の剣の師でもあったはずだが。本当なのか?」
「私自身はヨハン卿と知り合いではないわよ……。でもそんな風に言われてるの? あいつ案外有名なのね」

 知り合ったときは学者風で、剣だこがなければ剣奴だと気が付かなかったぐらいだ。
 だが、これまで危機的な状態にも関わらず生き残って来た。それは単純に運の要素もあるのだろうが、あいつ自身の力によるものが大きいのかもしれなかった。

「まあ、ありがたく使うわよ、テウが」
「……大きなお世話かもしれないけど、カルディアは従者に戦える者を入れた方がいい」

 ノアの意外な助言に唇を噛む。

「無駄だ、ノア。この女は意地でも戦う者を自分の下にはつけない。トーマなど、自分の手で殺していないだけで、十二分に人を殺しているが。つつくづく偽善が好きな女だ」
「分かったような口をきかないで」
「だが、そのつもりはないだろう? ギスラン・ロイスターの部下に重荷を背負わせて、自分は綺麗なままであろうとするのだから、始末が悪い」

 トヴァイスの嫌味は無視するに限る。ここで、イルと私の従者について永遠と説教されるのも業腹だ。

「いずれそのときが来たら、迎え入れるわよ。それまでは、その気はない」
「いっそのこと、イルって、奴を引き入れたら?」
「それは無理だと思うわ。あいつ、案外あれで忠義者のようだから」

 ギスランの下につくやつは変わり者が多い。だが、ギスランが揃えた一級の者達ばかりだ。忠義心は厚い。裏切ることを露ほども考えてはいないのではないかと思って思うほどに。

「じゃあ、今はいる従者のなかで戦えそうなのを見繕うしかないね。でも、テウは戦うって感じじゃないよ。……死臭はするのに、珍しい」
「そして、あの貧民に頼ることに、か。ますますあの男の思惑通りに事が運びそうで嫌になるな」

 あの貧民はイルのこと。あの男とは十中八九、ギスランのことだろう。
 リストだって、従者を持つならまず戦い、守る役目の奴を持てというだろう。トヴァイス達のように。だが、私には既にイルがついている。
 増やす必要性をあまり感じない。
 ギスランがイルの実力をどれほど知っていて評価しているのかは謎だが、それなりに認めてはいるのだろうと思う。でなければ、あの男がイルを私につけるはずがない。
 私は急激な人の変化に対応するのが苦手だ。だから、正直これ以上従者が増えるのも遠慮したい。
 イルも、自分より強い人間でなければ譲る気はないようだし、甘えさせてもらおう。
 これ以上、言葉を紡ぐとボロが出そうだ。口を閉ざすことにする。

「ギスランに操られている分にはまだいいと思うけど。俺達はトデルフィ公爵の手のひらの上で踊っているんだから」
「トデルフィ公爵、か。あの男の所在について、なにか情報は?」
「王都を立ったのは確かみたいだよ。調べさせているけど、姿を隠すのが上手い。姿も妙に変えていたし、見つけられるかは五分の確率だね」
「……ザルゴ公爵は私達の命を付け狙うと思う?」

 私達の間に深い沈黙が落ちる。
 最初に口火を切ったのは、トヴァイスだった。

「たとえ、もうその気がないとしても、俺達は対処しなければならない」

 対処とは殺すということだ。トヴァイスは冷徹さを顔に湛えていた。冴え冴えとした美貌に酷薄さが滲むと、この男の底にある薄暗い部分が浮かび上がるようで内心ぞっとする。

「あのときは完全にここで殺せるならばと思って出来心で殺そうとしたんだろうけど。でも勝算があったのかな? サンジェルマンはカルディアがあれを言わなかったら、俺達と心中する気だったみたいだし」

 その疑問は勿論あった。サンジェルマンは何故私達を巻き添えにして死のうとしたのだろう? 
 一人で死にたくないと弱気なことを思うような奴とも思えなかったが。
 だが、屋敷が、彼自身が燃えてしまった今、確かめる方法はない。

「トデルフィ公爵家は彼を死んだと言って取り合おうともしなかったが、なにかを隠しているのは明白だ。政局に関わることか、それともトデルフィ公爵家自体が邪教の使徒に成り下がったのか、まだ判断はつかないが」
「サラザーヌ家の次は、トデルフィ家か。そのうち、ロイスター家やバルカス家にも飛び火しそうだね。大四公爵家は力を落とす」

 ノアの言葉はもっともだ。
 そもそも、ロイスター家も、バルガス家も直系の血は途絶えようとしている。
 ロイスター家の跡取りであるギスランは子供を残せず、叔父様も子供がいない。
 大四公爵家という存在さえ、昔の話になる日が遠からず訪れそうだ。

「せめて公爵の目的が分かれば、動き方もあるのだろうがな」
「やり遂げなくてはならないこと、だったっけ?」

 ザルゴ公爵のやり遂げなくてはならないこと。
 夕日に沈む日に打ち明けられた話を思い出した。
 秘めやかで、初心な恋の話。
 また会おうと約束した。その約束を叶えるために、待っている。
 まさか、と思う。人を殺す恋があってたまるものか。
 国王陛下に生きていることを掴まれて、それから逃げるために自分の情報を漏らす奴らを消して回っている。おそらく、そんなところだろう。

「……でも、なんでザルゴ公爵はサガルの部下として過ごしていたのかしら? 身を隠したいならもっと別の方法があったはずなのに」
「ん?」

 ノアが目を丸くした。
 一人で考え込み過ぎて、話が飛んでしまったようだ。思考を辿るように、ノアが視線を落として、ゆっくり唇を動かす。

「サガル様は、トデルフィ公爵を部下なの?」
「よくは私も知らないのだけど、彼と死んだあと始めて出会ったときに、サガルの部下達と一緒にいたから」
「サガル様が今回の黒幕……?」
「というのはありえないだろう。すくなくともあの陣営が、今動けるような余力があるとはとても思えない」

 横槍を入れたトヴァイスに同意する。目を喪ったサガルが事を起こそうとするには時間も、準備も足りない。
 ザルゴ公爵の独断と考えるのが妥当だろう。

「でも、カルディアの意見は正しい。目立ちたくないなら、サガル様の元にはいなかったはず。何か、目的があって、側にいた」

 心当たりがないわけではなかった。
 レゾルールで、ヴィクター達は死者を蘇らせる研究をしていた。
 それは国王の悲願でもあり、好きな人を喪ったザルゴ公爵にとっても悲願だったのではないか。
 だから、サガルの元にいたのではないか。情報を得るために。
 確かなことだとは言えなかった。
 特に、トヴァイスの前ではいう気になれない。こいつが研究についてどこまで知っているかはしらないが、ほとんどの清族が抵抗あるように、聖職者であるトヴァイスもまた蘇りを快く思いはしないだろう。ここで揉めたりしたくはない。

「やり遂げたいことと繋がるかも分からんな。お手上げだ。だが、サガル様に会うぐらいならば構わないだろう」

 お前もついてくるか? と目線で問われる。
 トヴァイスにしては珍しい提案だった。首を振って遠慮する。

「個人的に話したいこともあるから、一人で行くわ」

 珍しく、トヴァイスはむっつりと口を閉ざし、嫌味を投げかけてくることはなかった。珍しいこと続きだ。この男ならば、せっかく誘ってやったのにと文句を言いそうなものなのに。
 そうだとここにいない商人の顔を思い出しながら、口を開く。
 蘭王は、今、かなり忙しくしていた。
 王都でノアが抗争を始めたからだ。血生臭い戦いには、武器が必要になる。
 戦う道具は高く売れる。あいつのことだから、上手く立ち回って稼いでるのだろう。

「話は変わるけれど、蘭王が言っていた商機って何だったの?」
「馬鹿げた話だ。お前が知る権利はない」
「女は黙っておけ、とでも?」

 トヴァイスは当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らした。

「トヴァイス、意地悪だね」
「あの男の荒唐無稽な計画を知る必要がどこにある?」
「言わないなら、俺が教える。上の空だったけど、蘭王の考えそうなことぐらい分かるから」

 指をぴんと立てて、イルは口を開いた。

「前提条件だけど、蘭王は『カリオストロ』を使って稼ごうとした、というのは分かっているよね」
「……ええ」

 話の流れから、蘭王が『カリオストロ』を入手しようとしていたのは分かっている。それを商売に利用しようとしていたことも。

「端的に言うと『カリオストロ』を売りさばこうとしたのだと思う。本自体を売ろうとした。サンジェルマンも、それを目的としてあの男を呼び出した」
「でも、あの本をどう売るのよ。中身は読めないのに」
「教典として売るわけじゃない。不老不死を得られる本として売るんだよ」
「人の関心ごとは死と性のことと相場が決まっているからな」

 結局、口出しして来たトヴァイスが額をとんとんと叩きながら言った。
 死と性。この場合は死、か。

「でも、不死になれるわけじゃないでしょう?」
「死期が近付き、眉唾物の品物を買い漁る金持ちは多い。そいつらに売り付ける時に商人が天使のように甲斐甲斐しく懇切丁寧に説明してやるとでも?」
「――騙して、買わせるつもりなのね」

 善良な商人だとは思っていなかったが、死に逝く人間に対して惨たらしい夢を見せるつもりだったのか。

「それだけなら、まだ可愛い方だよ。『カリオストロ』で体が変化した後のことも考えていただろうから」
「それはつまり、清族達の薬を売ろうとしていたってことよね?」
「俺達はサンジェルマンから飲まされたから薬で元に戻れた。その情報は、『カリオストロ』を売ったあと値千金の価値を持つ」
「元の体に戻れる薬だと言って高値で売りつけるつもりなのね。でも、少し引っかかるわ。だって、トヴァイスの家にある『カリオストロ』は異形に変じたりはしなかったのでしょう?」

 そもそも本当に『カリオストロ』は異形に変える力があるのか。それすら疑問が残る。

「……それはそうだ。俺も妙だとは思ったが、サンジェルマンに尋ねることはもう叶わなくなったからな」
「ノアは『カリオストロ』の信者達と交戦したのでしょう? 体は変じていた?」
「ああ、その話、していなかったっけ」

 今思い出しましたと言わんばかりに、ノアがぽんと黒い手袋をした手を叩いた。

「していたよ。だから、信者達の『カリオストロ』には体が変じる仕掛けがあるのは確か」
「『カリオストロ』は信者を異形に変じさせることで増やしていっているのでしょうね」
「だろうな。忌々しいことに、清族のあの薬、飲むと恐ろしい激痛に苛まれた。これから飲み続けることを考えると、気鬱に陥りそうになる」

 まさに激痛と呼ぶに相応しい痛みだった。トヴァイスでも気が滅入る凄惨な劇薬。それを忌避して、『カリオストロ』に堕ちたものも少なくないのだろう。

「さて、と。そろそろ俺は王宮に行って事情を説明してこないと。陛下には黙ってお返しをし始めたものだから、少し機嫌を損ねてしまったみたいなんだよね」
「どうせ嫌がらせだろう? 返事を返さないからと、王都を巻き込んで抗争を始めた」
「穿った考え。俺はただ、『カリオストロ』の撲滅というカードを切ったら、ゾイデックで好きにやる許可が貰えると思ったんだ」

 のらりとノアが言ってのける。
 ノアの交渉は物理に偏りすぎている気がする。要の駆け引きや揺さぶりがなく、一辺倒な印象を受ける。
 例えるならば、認めてもらうまで武勲を積み上げる騎士だろうか?
 戦場を赤く染め、敵味方を殺し尽くしてもなお功績が認められないため、屠り続けているような、殺伐とした危うさがあった。

「ノアは、危ないことにばかり介入している気がするわ……。少しは体を気をつけて欲しい」
「気をつける? それはカルディアの方。女の子なんだから、あまり無茶しちゃ駄目だよ」

 まるで、慮るような、ノアの言葉が少し怖い。彼の義手や身体中にある裂傷は、彼が自分を大切にしていない証明のようなものだ。
 自分の体が厭わしいとノアは思っている。
 ノアは自分の体を大切にしないのに、他人のことを心配する。自分のことを勘定にいれていなくて、歪さが増す。
 彼が統治するゾイデックが、常時戦場のような場所だからだろうか。
 ノアは、進んで命の削り合いに参加している節がある。それを嬉々としているような。
 ノアは立ち上がり、身支度を整えて本当に出て行ってしまった。
 トヴァイスと二人っきりになるのは耐えきれない。後に続こうと、立ち上がる。

「ノアは水を得た魚のようだな」
「……なに、突然」

 足を組んで、他人の屋敷だというのに寛ぎ始めた男に視線を向ける。
 トヴァイスは自分の唇に指を這わせ、ゆっくりなぞった。

「あいつには戦場がよく似合う。平穏のなかでは薬漬けで萎れていくだけだ」
「ノアを戦闘狂のように言うのね」
「馬鹿を言え。あいつはそういう奴じゃない。戦うのは好きではないだろう。――だが、得意だ。それに、血溜まりの中でしか、自分の価値を見出せない」

 ふんと鼻を鳴らす。

「訳知り顔ね。流石は幼馴染ということ?」
「幼馴染、か。あいつが時間だけでわかる奴ならば、両親はノアを持て余したりはしなかっただろうな」

 ノアはゾイデックの跡取り息子だった。父親は名誉ある男達の諍いに首を突っ込み、抗争の最中亡くなっている。
 ノアが跡を継ぐまでの三年間、彼の母親は屋敷の管理と領地の主権を手に入れた。懸命に取り組み、治めようとしたが、その政策はことごとく失敗した。

「……それはそうだけど」

 失敗を認めたくない母親のせいで、抗争は泥沼化。結局、代替わりしたノアが自らの手を斬り落として、事態を収集させた。

「わかるというのは傲慢な考えだろう。俺にはあいつの考えていることの一割も理解出来ない」

 トヴァイスはゆっくりとノアが出て行った階段に、視線を投げる。

「お前は、ノアのように騒いでくれるなよ。……あと、手紙は寄越せ。式のことで詰めることが山ほどある」
「お前に結婚式の相談なんてぞっとしないわね」
「俺もだ。お前が人妻になる手伝いをするはめになるとはな」

 視線が私に向けられる。執着とはまた別の奇妙な感情がそこにはのっている気がした。

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