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第二章 ゲームの世界へ
第15話 俺とトトとトトとイヨ
しおりを挟む地面に映るその影は徐々に小さくなっていき、それに伴い影の色は濃くなっていった。俺の周りには限定的な夜が訪れ、上空からは猛烈な風が叩きつけられる。
「――やばいやばいやばい、どうする。どうすりゃいい?!」
舞い上がる砂煙の中、薄目で影の持ち主を見上げてみた。
砂塵の中に黒い翼と長い尾が見え隠れしている。その全体像はまだ捉えられないが、数十メートルはあろう巨大な身体を持っていることは一目で分かる。
「逃げ、逃げるしかないよな……」
すぐに足を動かそうとした。
しかし、俺の意志に反して体は全く動こうとしなかった。足裏が地面に張り付いてしまったかのように、一切離れなかったんだ。
その時、砂煙の中に鈍く光る黒い瞳が見えた。
それはドラゴン・ジェムなどではなく、本物のドラゴンの瞳だった。
グオオオオオォォ!!
直後、凄まじい咆哮が山中に響き渡った。
その咆哮はスタートの合図のように俺の体を動かしてくれた。すぐさま背中でぐったりしているトトを胸の前に抱えなおし、力の限り足を動かした。
いつの間にか道を逸れてモンスターが出現する地域に足を踏み入れていたんだ。
――それも、上級者がパーティーを組んで挑むほどの巨大なドラゴンの出現地域に。
なぜ俺は道を間違えた。ぼーっとしていたからか? 焦っていたからか?
いや、未だにゲーム感覚でいたからに決まってる。モンスターに殺されるだなんて思っていなかったんだ。あぁ、クソ! 誰か俺を殴ってくれ。
「せめて、せめてトトだけは助けないと――」
俺は整備された山道を外れ、木々の間を縫うように走った。
太い幹が、生い茂る葉が、空を飛ぶ黒竜から俺達を守ってくれるかと思った。しかし、ドラゴンは樹木や岩さえも物ともせずに迫り来る。
どこか、どこかトトを隠せる場所は――。
走りながらも視線を動かし続けた。
だが、女子中学生の体をすっぽりと隠せそうな場所はなかなか見つからない。その間にも背後からは低く恐ろしい唸り声が迫ってきている。
その時、一本の大木の側に人影が見えた気がした。
視界の端にチラと何者かが映り込んだのだ。銀色の髪の、恐らく女性。
まさか、俺達以外の漂流者か?
一瞬だけ足を止めそうになった。しかしなんとか走り続ける。
見間違いに違いない。この終末の世界に他のプレイヤーが存在するなんて考え辛い。それに、この足は何があろうと止める事はできないんだ。
「……どうかしたのイヨ君?」
俺の足を止めたのはトトのか細い声だった。
少し前から逃げ切れた事は分かっていた。しかし、何故か足が止まらなかった。
「だ、だいじょう、大丈夫だ……げほっ」
心臓も肺も張り裂けそうな程に膨らみ、呼吸が上手く出来なかった。
足は震えてるし、視界に白いフィルターがかかっている。なぜ俺達は助かった……? ドラゴンはどこにいった……? どのくらい走ってたんだ……?
――思考も上手くまとまらない。
「ど、どうしたの? ほんとに大丈夫?」
トトが俺の腕から降り、背中をさすってくれた。
俺は一度息を全部吐き出し、ゆっくりと息を吸った。そうしてやっと、頭に血液が戻り、思考の回路が繋がってくれたようだった。
――そういえば、あの人影はなんだったんだ?
「ねぇー! 待ってよー! ねぇってばー!」
背後から聞き覚えのない声が聞こえてきた。
俺は重い体をゆっくりと声のする方へ向け、目を凝らしてみる。
そこには、『イヨ』と『トト』と知らない女性がいた。
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