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第一章 最後の戦い、始まりの戦い

第4話 冷たい扉

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「うわああああ!」

 城内に到着して装備を確認していた時、トトの悲痛な叫び声がどこからか聞こえてきた。悲鳴の聞こえてきた方向に目をやると、声の発生源と思われる場所から無数の暗闇の綿毛のようなものがどこからともなく湧いて出ていた。

その暗闇の綿毛は磁石に吸い寄せられる砂鉄のようにざわざわと一か所に集まっていき、一つの大きな暗闇に変わっていった。そして、その暗闇が再び綿毛のようにぱらぱらと散らばって行くと、そこから身を縮こまらせた銀髪の少女が姿を現した。

なるほど、なるほど。俺もああいった具合に飛ばされてきたんだな。

俺が空間移動の魔法に感心している間、トトはピクリとも動かなかった。
恐らくだが到着したことに気が付いていないらしい。

「おーい、トト」

名前を呼んでみる。

「あれ、ついた……?」

 トトは恐る恐るといった様子で片目だけを開けていた。それからやや間があり、その狭い視界に俺の姿を見つけるやいなや両目を大きく開き、きょろきょろと辺りを見回していた。どうやら本当に気が付いていなかったらしい。

「いやー、叫んじゃったなぁ。恥ずかしいなぁ」

 トトは気まずそうに指先を遊ばせながらそう言った。
それから体をぶるぶると震わせ、服についた暗闇の綿毛を払っていた。

「えっと、ここはもうお城の中なのかな」

「うん。あの階段を上って最上階の広間にまで行けば魔王がいる。まぁでも、少し時間があるからここでゆっくりしてからいこう」

 俺は古ぼけた赤絨毯の先に延びる石造りの階段を指差して言った。
俺達が飛ばされたのは城の一階部分のエントランス。俺達の背中側には大きな正面玄関があり、その玄関から真っ直ぐに歩いて行くと、これまた無駄に大きな石造りの階段がある。そこを上って行くと魔王が眠る広間に辿り着くのだ。

 現在の時刻は23時20分。
 俺達は階段に腰をおろして煤《すす》けた壁を見つめた。壁には年中明かりを絶やす事のない蝋燭と煌びやかな額縁に入れられた風景画が飾ってあった。その絵はどこかの草原を描いたモノだった。恐らくこの世界のどこかの景色なのだろう。なぜだか微かに見覚えがあった。

「ねぇイヨ君。魔王との戦いって制限時間があるんだよね? たしか、30分間だったっけ?」

 煤けた壁を見つめたままトトが口を開いた。
俺はその様子を横目でちらりと確認し、視線を壁に戻してから返事をする。

「そう。それに一日一回しか挑戦できないようになってる」

「だから最後の最後の最後の、この時間帯を選んだんだ?」

「うーん……。いや、そういう訳でもないかな。いつもこの時間にここに来てたから、今日もこの時間でいいやと思って」

「ふむふむ」

 普段通り、トトはそんなに興味がない様子。
その後は「なるほどねー」と小さく呟いたかと思うと、すぐに鼻歌を歌い始め、足をぶらぶらと揺らしていた。

 それもそうか。と思った。
魔王を倒せたとしても倒せなかったとしても、その数分後には世界が終わるんだ。トトからすれば、今更この最終決戦に何かを見出す事もないのだろう。

「トト、俺頑張るからな」

 退屈そうに壁の染みを眺めるトトに言った。
こんな無意味な戦いに最後まで付き合ってくれたんだ。せめて魔王を倒し、クリア後の世界をトトに見せてやらないと申し訳が立たないってもんだ。

「うん! 頑張ってね!」

トトはそう言ってとびっきりの笑顔を見せてくれた。



「そろそろ行こうか。魔王にも最後の挨拶をしなきゃな」

 時刻は23時25分、最後の瞬間が刻一刻と近づいていた。
俺達は薄汚れた階段を上っていき、城の最上階にある広間の前まで無言で歩き続けた。トトはリラックスしながら歩き、俺はぎこちなく歩いていた。

「……よし、行くか」

自分に言い聞かせるように、ボソリと小さな声で言った。
そして、いつもより重く冷たく感じる扉を両手で押した。

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