利害一致婚のはずですが、ホテル王の一途な溺愛に蕩かされています

番外編ＳＳ

さえちゃんの初恋？ ④

――それから数時間後。

バルコニーからの夜景がとても美しい、ラグジュアリールーム。

カランとノンアルコールのシャンパンの入ったグラスを合わせ、「お疲れさま」笑顔を交わす私たち。

「挙式もパーティーも、とても素敵でしたね。なんだか、私たちの式を思い出しました」

「さすがイベント会社なだけあって、俺の方も勉強させられたよ」

部屋でまったり過ごしたあと、今日の思い出を振り返りながら、絶品ディナーに舌鼓をうつ私たち。

穏やかな夜風が肌に優しく、気持ちがいい。

披露パーティーは、陵介くんの会社みんなでサプライズがあったり。美容部の先輩たちによるメイクが、芸術的だったりと、まるでイベントのような盛り上がりだった。

さりげなく、自社をアピールしながらも周囲を魅力するパフォーマンス。すぐるさんは何度も唸っていた。

「随分と長くかかったけど、さえ、体調の方はなんともない？」

「ふふ、全然大丈夫ですよ、すぐるさんずっと私の代わりに動いてくれたじゃないですか」

「そんなことないよ。挨拶ばかりして疲れただろう」

この会話も、もう何度目だろう。すぐるさんはほんとに心配症というか、過保護というか。こっちが無理をしていないか、心配になってしまうくらいだ。

パーティーの間も挨拶周りをそれとなく短めに済ませてくれたり。

ビュッフェスタイルのお料理は、まるで親鳥のように運んでくれたり。

そんなふうにして、幸せな気分に浸っていると――

「――で、初恋の彼とは、あんな感じのお別れで良かったの？」

「――？！　げほっ！……けほっ」

デザートが運ばれてきた頃、すぐるさんは、サラリととんでもなことを聞いてきた。

飲んでいたレモン水を危うく吹き出すところだった。

「ほらほら」なんて席を立ち、背中をさすってくれる優しいすぐるさん。

やっぱり素敵……って、そうじゃなくて！

「すぐるさん……咲の話し聞いてたんですか？！」

ナプキンで口元を抑えながら、目を瞬かせると、

「……そりゃ、さえの初恋なんて言われて、聞き逃す俺じゃないよ」

ほんのすこーしだけ気まずそうに、私に向けていた視線を夜景の方へと向けてしまうすぐるさん。

いつもニコニコしているすぐるさんの、なんだかちょっとだけ不貞腐れたようにも見える姿。

可愛らしくて、ついフッと口元が綻んでしまう。

「……あ、笑った？」

「ふふ、すみません……すぐるさんがそんな顔するとは思わなくて。でも、ちょっと誤解なので、話し聞いてもらえますか？」

「聞かないわけないでしょう。なら、これ食べてからゆっくり話そう」

すぐるさんは少し不思議とそうな顔をしていたけれど、私の頬にキスを落としいつものように了承してくれた。