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番外編SS

さえちゃんの初恋? ②

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「あ、いた! さえねぇ」

そんなふうして和気あいあいと談話していた、そのとき。

「あ、咲」

本日、両親と共に招待を受けていた弟の咲人が、どこからともなく走ってきた。

シンプルなダークスーツにネクタイやポケットチーフで華やかさを添え、ライトブラウンの明るい髪は横に流れフォーマル仕様だ。

私の後方でゴタゴタ小競り合いをしている二人に気付く様子もなく、目の前であしを止めるなり興奮気味で口を開く。

「さえねぇ! 俺、今、キヨさんと会ってきたよ!」

キヨさんとはみゆきの十ニ歳年上のお兄さん――瀬谷清人さんだ。

もちろん私たち姉弟とも幼なじみ。

みゆきと瓜二つの大きな猫目。陶器のような滑らかな肌。鼻なんて外国人みたいに高いし。おまけに右目したにはセクシーな泣きぼくろ。

ふたりは昔から近所でも評判な美人兄妹だった。

「もう五年ぶりくらいでさ! キヨさんってば、ぜんっぜん変わんないの!」

「へぇ、そっか、さくはそんなに会ってないんだ」

みゆきの家は、私のいたT&Y化粧品会社の経営に携わっていることから、

私は咲人とは違って、職場を辞めるまでは、何度か社内で顔を合わせている。

変わりなければ、両親が引退されてからは今でも専務取締役についているはずだ。

数年前にご結婚されて、今では双子のパパ。奥さんがまた妊娠中――とみゆきが言ってたような。

っていっても、実家にさほど帰らず、みゆきにもなかなか会わない咲は知らないか。

「もう35過ぎてるのに、色男すぎるよね! 奥さんもめっちゃくちゃ美人で、子供なんて双子の天使!」

「うんうん? 落ち着いて、さく……」

けれども、ちょっと嫌な予感がしてきた……。

「いやいや、落ちついてられないよ! さえねぇも会いたいでしょう! 初恋のひとじゃん! まだあっちにいるから早く行って――もがが!」

慌てて咲人の口をガハッ! と押える。
ちょっと声が大きすぎるし、今の発言は誤解をうむ!

しかし、自分のしたことに気づかない咲人が「もう、何するんだよーー」顔をあげた瞬間――

ポンと私の両肩に乗る大きな手。

「ふたりとも、そろそろ撮影の順番だよ?」

私の隣からひょっこり顔を出したのは、すぐるさんだ。

「……す、すぐるさん……」

咲人がようやく近くにいたすぐるさんの存在に気づき、サーッと青ざめる。

「咲人くんも一緒に撮ろうよ、挨拶はその後でも大丈夫かな?」

「――は、はいっ」

けれどもすぐるさんは、特に気にする素振りもなければ、至って普通で聞こえてなかったぽい。

もとよりすぐるさんは、余裕のある(ときとないときがあるけど)大人で、気にすることもなさそうだから、心配は必要ないかな。

弁解しようとしたけれど、どうやら大丈夫らしい。

今にも魂の抜けていきそうな咲人と共に、ひとまず晴れ姿のみゆきと陵介くんとの撮影を楽しんだ。



――よく学生時代みゆきのうちにお邪魔したときには、色気たっぷりの笑顔で出迎えてくれたキヨさんのことは、今でもよく覚えている。

鼻を垂らして黄色のベレー帽と幼稚園バッグを下げていた私も。
ランドセルを背負って駆け回っていた私も。

遊びに行くたびに眩しくて、遠巻きに見るのがやっとだった。

だけど、それが『初恋』か?って聞かれると、答えは断然ノーだ。

引っ込み思案な私は、クラスの男子に話しかけるのも一苦労だったのに。

その頃の高校生や大学生の輝かしいキヨさんのことなんて、まともに見れるわけがない。


そもそも、初恋をしたのは咲の方だ。

5歳のときに引っ越してきた、フランス人形のようなみゆきにウッカリ恋をして。

小学校に入る前には、気が強くしっかりものの彼女にバシバシ言い負かされ、度々泣かされるようになった咲は、どうしても悔しかったようで私のことも同じ物差しでとらえ、同じような立場にしようとする。

もちろん社交的な咲は、席替えをするたびに好きな子が変わるようなませた子供だったから、

今となってはただの笑い話なんだけれども。

私にだけ、まだその設定が残っていたとは……。

根気強く否定してこなかった自分を叱りたい気分になった。

まぁ、すぐるさんは聞いていなさそうだったから良かったけれど。

咲にはあとでよーく言い聞かせておかないと。


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