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【R18】afterStory happy honeymoon〜
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「迷惑かけてごめんなさい。恥ずかしいのですが……あまりひとりで外を出歩いたりしないから、知らない土地ではぐれてどうしたらいいか分からなくて……とても助かります」
女性をセンター内のインフォメーションカウンターまで送り届けていると、彼女は申し訳なさそうに自分のことを搔い摘んだ。
思った通り……女性はよき家柄のお嬢さまでひとりでの行動には、慣れていないようだ。まだ大学を出たばかりで、歳は二十代前半だと言う。
「いえ、お役に立てて良かったです」
「……お二人は、ハネムーンですか?」
察したように尋ねられて、もじもじしながら肯定する。
「は、はい、実は……」
「ふふっ、やっぱり。いいなぁ……」
「?」
しみじみ聞こえて首を傾げると、女性は我に返ったように付け加える。
「あ……いえ、私、実は、明日会うの、ずっとお慕いしていた人で……」
――あ、なるほど。
「デートなんですね」
「で⁉ で、デートでもないん……です。私、ずっと見向きもされなくて……あっちからすると、不本意な結婚だから当然なんですが……それで、少しでもいい思い出になれたらいいなと思って、プレゼント探そうとして――」
けっ、こん…? 友達じゃなくて、婚約者なの……?
深そうな事情に困惑する。
でも、何だかとても淋しそうな顔をしてモニョモニョしているのが気にかかってしまった。
そこで、ちょうどカウンターが見えてきて、千秋さんが先に足を運び事情を話してくれた。
無事に取り合ってくれるのを見届けた私たちは、何度も頭を下げる彼女に手を振り、ディナーへと向かった。
ちょっと後ろ髪ひかれる思いだったけれども。
◇
「あの女性も明日、楽しめると良いんですけど……」
その夜のこと。
ホテルに戻った私たちは、明日に備えて準備をしていた。明日はレノックスおじさんが、クルーズに連れて行ってくれる日だ。とてもワクワクする。
……でも、ふたりで仲良く準備をしていると、どうもさっきのことが気にかかってしまった。
「店内で困ってた、あの女性ですか……?」
尋ねられて、こっくり頷いて胸の中にあった気持ちをおずおずと口にした。
「好きな人のプレゼントを探していたのに……っというかその人と結婚するかもしれないのに、とても淋しそうな顔をしているのが気にかかって」
それは一体どういう状況なのだろうと考えた。彼女からは、ずっと一途に思っている気持ちが伝わってきたのに。それも向こうは不本意だなんて……どういう状況?
「…………」
「その人に会いに、異国にまで来たんです……相手のかたに気持ちが届けばいいのですが――」
最後にそう呟くと、千秋さんが何も言わずに頭ポンと撫でてきた。
「千秋さん?」
よしよしと犬でも撫でるみたいに、洗ったばかりのフワフワの髪が何度も撫でつけられる。
「みんながあなたのような人なら、誰も悩まない世の中になるでしょうね」
穏やかな口調と優しい温もりに褒められた気がして喜びかけたけれども、なんとなく違う気がして止めた。
「……それって、褒められてるんですかね?」
千秋さんが苦笑したあと「一応ね」なんて言って続ける。
「あなたは、思ったまま言葉にしたり、困難な状況でも常に前に突き進む強さを持っているでしょう。あの女性がどんな方かはわかりませんが、どことなく自信無さげで思い悩むように見えたので」
私にそんな力があるとは思っていないけれど、確かに、さっきの女性の口ぶりは、少し後ろ向きに聞こえた。
「……道を切り開く力は、大切でしょう」
そう答えた千秋さんを見て、胸の奥が熱くなった。
「そうですね……」
少なくとも私は、清水の舞台から飛び降りるような覚悟で挑んだ告白があったから、今があるのだと思っている。
あの女性がどんな状況かはわからないが、彼女の幸運を祈りたいと思った。
なんていろんなことに思いを馳せていると、千秋さんが、ゴホン! と咳払いして空気を変える。
「まぁ……明日、色々とわかるのではないでしょうか……」
「え? 明日……?」
なんのこと……? と考えてすぐに、思いあたることがひとつ。確か……
「そう言えば、明日のクリスとのクルーズの件って、同行者がいるんでしたよね」
いると言われて、話が途中になってしまっていた。
え? でも、〝色々わかる〟ってどういうこと……?
「えぇ、俺の見解ですが……もしかすると、さっきの方は――」
――私は、このあと大きな声をあげてビックリした。
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