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キャスカに言い寄る男たち
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「ここだな」
冒険者ギルドの女子寮は、ギルドから歩いて5分もかからない場所にあった。
高い土壁に囲まれたレンガ造りの2階建ての立派な建物を見るに、どうやら冒険者ギルドはだいぶもうかっているらしい。
「それでは、ここからはわたしとミリゼットさんで話を聞いてきますのでヒカリさんはここで待っていてくださいね」
「待った。オレも直接話を聞きたいからできればここにビキニさんを連れてきてくれないか?」
「わかりました。ヒカリさんはビキニさんに興味があるんですね」
「変な言い方はやめてくれよ。そんなんじゃないから」
「ふふふ、分かってますよ。それでは行ってきますね」
メルルとミリゼットを見送ることしばし。まだ何分も経っていないはずなのにやたらと疲労感が貯まる。
『見て……あの男あんなとこでなにをしているのかしら』
『あそこってギルドの女子寮よね。ギルドに通報したほうがいいかしら』
『ギルドよりも先に衛兵さんじゃない? いや、こっち見たわよ早く逃げましょう』
そんな会話が聞こえてくるたびにオレの心にダメージが貯まっていく。頼む、早く帰ってきてくれ。
「待たせたな。ん、どうしたヒカリ殿? 顔色が優れないようだが何かあったのか?」
「なんでもない……なんでもないんだ……」
「あんたがギルドマスターから依頼を受けたっていう冒険者かい?」
「ああ。Eランクのヒカリだ。よろしく頼む」
寮母のビキニさんはでっぷりとしてちんまりとした……なんというか、ここが異世界であることを考えるとドワーフか? と思いたくなるような……そう、ふくよかな包容力に溢れる人だった。服装も、いかにもといった感じの地味なおばさん系の服。
「ビキニじゃくて安心した」
「はあ? 何言ってんだいアタシがビキニだよ」
「それで、キャスカさんはまだこの寮には戻ってきていないんですね?」
「ああ。昨日の午前中に引っ越しの手伝いをしに行くって出て行ったきりもどってきてないさね」
「夕方頃にも戻っていませんか? 差し入れを取りに来たとかは?」
「来てないねえ。 アタシは昨日の夕方はずっと寮母室にいたけど、キャスカどころか誰もこなかったよ」
「じゃあ、差し入れはどこかで買うつもりだったってことか? ビキニさん、彼女がよく買い物したり寄ったりする店や場所を知ってたら教えてくれないか?」
「ああいいよ。いいかい、たくさんあるからちゃんと覚えるんだよ。まずは食べ物の差し入れだとしたらあそこの……酒なら……新居用の雑貨なら向こうの……服やアクセサリーなら……遊ぶなら……とまあ、こんなとこかねえ」
ビキニさんの挙げた店は全部で20近くあって、正直ほとんど覚えきれなかったけど問題ない。
今の説明シーンはきちんと動画用に撮影してあるからな。編集前の生動画だけどこれを見返しながら回れば問題ないだろう。
「キャスカのこと頼んだよ。アタシも主婦のネットワークってやつで見かけた人がいないか聞いてみるからさ。」
「助かるよ。こっちも何かわかったらビキニさんにも連絡するようにするよ」
「うちの寮に住んでる娘はアタシの娘も同然だからねえ。くれぐれも頼んだからね」
ビキニと別れたオレたち3人は手分けをして教えてもらった場所を回ることにした。
「メルルとミリゼットで組んで回ってくれ。オレはひとりで回ってみる。とりあえず3時間後に寮の前で落ち合おう」
ミリゼットはオレと行きたそうだったが、ここは残念ながら却下。いくら街中で治安もそれほど悪くはないといってもさすがにメルルひとりで行かせるわけにはいなかいし、実は迷子スキルがカンストしている彼女にはこの街に詳しいミリゼットがいっしょにいたほうがいいだろう。
その後2時間ほどかけてあらかじめ割り当てを決めておいた場所はすべて回ったが、キャスカの目撃情報はなかった。
「まだ寮に戻るにはまだ早いよな。もう少しこの辺で聞き込みでもしてみるか。ん……あれは?」
ひとり考えていたオレの目に写ったのは、つい先日行ったばかりの商業ギルドだった。
そういえばあそこのナナっていう受付嬢はキャスカと仲がよさそうだったよな。ちょっと行って話を聞いてみるか。
「いらっしゃい……ああ、ヒカリさんどうされました? 新居に何か問題でも?」
ナナは今日もこの前と同じ窓口で業務にあたっていた。
「いや、家には問題ないんだが……実はキャスカが昨日の夕方から行方不明なんだ。仲がよさそうだったナナなら行先に心当たりとかないかと思ってな」
「キャスカですか? 寮にもいないんですか? それだと……うーん……」
「いや、ないならいいんだ。仕事中に悪かったな」
「すいません。でもここ最近のキャスカは前よりずっと明るく元気になってたんですよ。ヒカリさんのおかげで」
「オレの?」
「ええ。キャスカって、あんな性格だけど見た目だけはいいじゃないですか? だからよくガチムチの冒険者に口説かれるんですよ。大抵はキャスカにこっぴどく振られてそれで終わるんですけど、何人か凄くしつこいのがいてうんざりしていたそうなんです」
「そうだったのか」
「そこに最近キャスカのドンピシャのタイプのヒカリさんが現れたんですよ。好き好きオーラを出しまくっていたら、言い寄ってくる連中も減ったみたいで喜んでましたね」
「オレとしては反応に困るけど……キャスカも大変なんだな」
「ええ。それに減ったとは言ってもあきらめの悪い奴はまだ残っているみたいでして……そんな連中を諦めさせるためにヒカリさんと既成事実を作るんだーっておとといいっしょに飲んだ時に盛り上がりました」
「おととい飲んだのか? 場所は?」
「冒険者ギルド近くの居酒屋ですよ。冒険者はもちろん、ギルド職員も行きつけのお店ですね」
……考えすぎだろうか? なんだかいやな予感がする。オレの脳裏に浮かぶのは、日本でも時々起こるあの悲しい犯罪。
「わかった、ありがとう。今夜にでもその店に行ってみるよ。ナナも何か情報が入ったら教えてくれ」
「はい。えーと、連絡先は冒険者ギルドに伝言でいいですか?」
「ああ。ただし、他の人間には聞かれないようにギルドマスターに直接話してくれ。オレからもギルドマスターにナナのことは伝えておく」
「……冒険者ギルド内に、今回の行方不明に関わってる人物がいるかもしれないと?」
「まだ決まったわけじゃない。でも、念には念を入れるのがオレの主義なんだ。危ない橋は渡らない派だからな」
冒険者ギルドの女子寮は、ギルドから歩いて5分もかからない場所にあった。
高い土壁に囲まれたレンガ造りの2階建ての立派な建物を見るに、どうやら冒険者ギルドはだいぶもうかっているらしい。
「それでは、ここからはわたしとミリゼットさんで話を聞いてきますのでヒカリさんはここで待っていてくださいね」
「待った。オレも直接話を聞きたいからできればここにビキニさんを連れてきてくれないか?」
「わかりました。ヒカリさんはビキニさんに興味があるんですね」
「変な言い方はやめてくれよ。そんなんじゃないから」
「ふふふ、分かってますよ。それでは行ってきますね」
メルルとミリゼットを見送ることしばし。まだ何分も経っていないはずなのにやたらと疲労感が貯まる。
『見て……あの男あんなとこでなにをしているのかしら』
『あそこってギルドの女子寮よね。ギルドに通報したほうがいいかしら』
『ギルドよりも先に衛兵さんじゃない? いや、こっち見たわよ早く逃げましょう』
そんな会話が聞こえてくるたびにオレの心にダメージが貯まっていく。頼む、早く帰ってきてくれ。
「待たせたな。ん、どうしたヒカリ殿? 顔色が優れないようだが何かあったのか?」
「なんでもない……なんでもないんだ……」
「あんたがギルドマスターから依頼を受けたっていう冒険者かい?」
「ああ。Eランクのヒカリだ。よろしく頼む」
寮母のビキニさんはでっぷりとしてちんまりとした……なんというか、ここが異世界であることを考えるとドワーフか? と思いたくなるような……そう、ふくよかな包容力に溢れる人だった。服装も、いかにもといった感じの地味なおばさん系の服。
「ビキニじゃくて安心した」
「はあ? 何言ってんだいアタシがビキニだよ」
「それで、キャスカさんはまだこの寮には戻ってきていないんですね?」
「ああ。昨日の午前中に引っ越しの手伝いをしに行くって出て行ったきりもどってきてないさね」
「夕方頃にも戻っていませんか? 差し入れを取りに来たとかは?」
「来てないねえ。 アタシは昨日の夕方はずっと寮母室にいたけど、キャスカどころか誰もこなかったよ」
「じゃあ、差し入れはどこかで買うつもりだったってことか? ビキニさん、彼女がよく買い物したり寄ったりする店や場所を知ってたら教えてくれないか?」
「ああいいよ。いいかい、たくさんあるからちゃんと覚えるんだよ。まずは食べ物の差し入れだとしたらあそこの……酒なら……新居用の雑貨なら向こうの……服やアクセサリーなら……遊ぶなら……とまあ、こんなとこかねえ」
ビキニさんの挙げた店は全部で20近くあって、正直ほとんど覚えきれなかったけど問題ない。
今の説明シーンはきちんと動画用に撮影してあるからな。編集前の生動画だけどこれを見返しながら回れば問題ないだろう。
「キャスカのこと頼んだよ。アタシも主婦のネットワークってやつで見かけた人がいないか聞いてみるからさ。」
「助かるよ。こっちも何かわかったらビキニさんにも連絡するようにするよ」
「うちの寮に住んでる娘はアタシの娘も同然だからねえ。くれぐれも頼んだからね」
ビキニと別れたオレたち3人は手分けをして教えてもらった場所を回ることにした。
「メルルとミリゼットで組んで回ってくれ。オレはひとりで回ってみる。とりあえず3時間後に寮の前で落ち合おう」
ミリゼットはオレと行きたそうだったが、ここは残念ながら却下。いくら街中で治安もそれほど悪くはないといってもさすがにメルルひとりで行かせるわけにはいなかいし、実は迷子スキルがカンストしている彼女にはこの街に詳しいミリゼットがいっしょにいたほうがいいだろう。
その後2時間ほどかけてあらかじめ割り当てを決めておいた場所はすべて回ったが、キャスカの目撃情報はなかった。
「まだ寮に戻るにはまだ早いよな。もう少しこの辺で聞き込みでもしてみるか。ん……あれは?」
ひとり考えていたオレの目に写ったのは、つい先日行ったばかりの商業ギルドだった。
そういえばあそこのナナっていう受付嬢はキャスカと仲がよさそうだったよな。ちょっと行って話を聞いてみるか。
「いらっしゃい……ああ、ヒカリさんどうされました? 新居に何か問題でも?」
ナナは今日もこの前と同じ窓口で業務にあたっていた。
「いや、家には問題ないんだが……実はキャスカが昨日の夕方から行方不明なんだ。仲がよさそうだったナナなら行先に心当たりとかないかと思ってな」
「キャスカですか? 寮にもいないんですか? それだと……うーん……」
「いや、ないならいいんだ。仕事中に悪かったな」
「すいません。でもここ最近のキャスカは前よりずっと明るく元気になってたんですよ。ヒカリさんのおかげで」
「オレの?」
「ええ。キャスカって、あんな性格だけど見た目だけはいいじゃないですか? だからよくガチムチの冒険者に口説かれるんですよ。大抵はキャスカにこっぴどく振られてそれで終わるんですけど、何人か凄くしつこいのがいてうんざりしていたそうなんです」
「そうだったのか」
「そこに最近キャスカのドンピシャのタイプのヒカリさんが現れたんですよ。好き好きオーラを出しまくっていたら、言い寄ってくる連中も減ったみたいで喜んでましたね」
「オレとしては反応に困るけど……キャスカも大変なんだな」
「ええ。それに減ったとは言ってもあきらめの悪い奴はまだ残っているみたいでして……そんな連中を諦めさせるためにヒカリさんと既成事実を作るんだーっておとといいっしょに飲んだ時に盛り上がりました」
「おととい飲んだのか? 場所は?」
「冒険者ギルド近くの居酒屋ですよ。冒険者はもちろん、ギルド職員も行きつけのお店ですね」
……考えすぎだろうか? なんだかいやな予感がする。オレの脳裏に浮かぶのは、日本でも時々起こるあの悲しい犯罪。
「わかった、ありがとう。今夜にでもその店に行ってみるよ。ナナも何か情報が入ったら教えてくれ」
「はい。えーと、連絡先は冒険者ギルドに伝言でいいですか?」
「ああ。ただし、他の人間には聞かれないようにギルドマスターに直接話してくれ。オレからもギルドマスターにナナのことは伝えておく」
「……冒険者ギルド内に、今回の行方不明に関わってる人物がいるかもしれないと?」
「まだ決まったわけじゃない。でも、念には念を入れるのがオレの主義なんだ。危ない橋は渡らない派だからな」
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