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ロイヤルファミリー?
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「こちらの方が異世界からの・・・」
「ああ、名は花音と言うらしい。」
馬車の中に乗せられた私たちはガタガタと揺らされながら王都へ向かっている。
馬車の中には私、アル、ロドルフさん、そして初老の男性。
彼はマルクさん、彼の専属執事らしい。
白髪混じりの髪、口元には髭があり、優しそうなイケおじ。本当にこの世界は美形しかいないのではと不安になって来た。
そして何より私は王子にタメ口、愛称呼び、魔法を使ってくれとこき使うというとんでも三拍子をしてしまってるから、いつ首を刎ねられるかとビクビクしながら馬車に乗っている。
正直生きた心地しない。
「花音様。」
「は、はいっ!」
マルクさんに名前を呼ばれて、ただでさえ伸びてた背筋が更にピンと伸びる。
な、何言われるんだろう…。
「殿下を助けて下さり、本当にありがとうございます。」
そういって深々と頭を下げるマルクさんに、想像とは違う反応が来て一瞬固まったけど、すぐに頭を上げる様促した。
「私は何もしてませんよ!」
「いえ、怪我をした殿下の手当、洞窟からの移動、食事、我々に居場所を伝えるために狼煙を上げる。本当に感謝しかありません。」
「あのまま洞窟にいたら僕は死んでいたかもしれない。花音が居てくれて良かったと思ってるんだ。自信を持ってくれ。」
ロドルフさんに続いてマルクさんやアルにまで感謝されるとは思わず、いつ首を刎ねられるかと構えていた緊張が解けて、どっと汗が吹き出した。手汗で手のひらがぬるつくくらいには。
「本来であれば感謝のための褒美を今すぐに授けたい所ですが、花音様は今から魔法塔の方へ向かわなくてはなりません。申し訳ありませんがご協力をお願いいたします。」
19歳の小娘に深々と頭を下げて低姿勢なマルクさん。とっても誠実で人を見た目で判断しない人で、とても好感が持てる。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」
「ご丁寧にありがとうございます。殿下は一度城へお戻りください。」
「え?俺身元保証人になるつもりだったんだけど。」
また一人称が俺になってる。きっとロドルフさんやマルクさんには気を許してるんだろうな。
でも3日遭難してたのについてくるって言うのは私としても申し訳なさ過ぎる気もする。
「そう言うと思って委任状を用意しております。こちらにサインを頂ければ我々が花音様を魔法塔までお連れいたします。」
アルはまだ半分納得がいってない様な顔をしていたが、サラサラっとその紙に筆を走らせた。
「アルベール様のサイン、確かに賜りました。では先に王城へ向かったのち、魔法塔へ向かいます。」
マルクさんが委任状を丸めて紐で留めたのちにそう告げた。
一度ここでアルと離れるのは、こっちに来てからずっと一緒だったからちょっと心細いけど、マルクさんが一緒なら大丈夫そう。
ふうっと一つ息をつくと、ロドルフさんが私をジロジロと見ていることに気づいた。
「あの・・・何かありましたか・・・?」
「あっ、も、申し訳ありません・・・異世界と聞いて、服の素材や持ち物がとても気になって・・・」
今の私はウインドブレーカー上下、その中にジャージ上下。背中にはリュック、手にはよもぎ入りのレジ袋。
確かに、ロドルフさんやマルクさんたちを見る限り、中世前後のヨーロッパっぽい見た目をしている。
レジ袋やウィンドブレーカーは確かに気になるか。
「レジ袋は・・・あ、触ってみます?」
「いいのか・・・?」
ロドルフさんが遠慮がちに、それでいて興味津々に、目を輝かせながらレジ袋に触れた。
「薄いのにこんなにも丈夫なのか・・・不思議だ・・・」
「私も素材とか、どうやって作られてるかとかは詳しくないですが、割と一般的に普及してる物ですね。」
ロドルフさんは中に入ってたよもぎを見て目を丸くした。
「薬草がこんなに!?」
「ああ、それでアルベール殿下を手当しました。」
「そなたは薬学の知識があるのか・・・」
「それが薬草だということは知ってますけど、本格的な事は知らないですよ。」
調合とかはよく分からない。
専門的に勉強なんてしたこともないしね。
「どうだ、花音は凄いだろう?」
なぜかアルがドヤ顔してる。
いや、ただおばあちゃんから教わっただけだよ。
傷にはよもぎ、火傷にはアロエだって耳がタコになるだけ聞いただけ。
って言っても今度はそなたの祖母上は学者なのかとか言われそうで、面倒だから黙っておくことにした。
馬車に揺られること数十分。マルクさんが馬車を走らせている人と一言交わすと私に声をかけてくれた。
「花音様、こちらがわが国の王城でございます。」
って事はここでアルと別れるのか。
そう思って窓の外をチラリと見ると、とんでもなく大きなお城が見えた。
「Wow。」
思わずそう声が出た。
何これ、外壁は汚れひとつ見当たらない綺麗な白。
城壁と外門を通り抜けると丁寧に手入れされているであろう植物が出迎えてくれる。
絵本とかに出てくるお城そのもので、現実味が湧かない。ここにアルが住んでるの?王子として?
空いた口が塞がらないまま城の門の前で止まった馬車、するとすぐに声が飛んできた。
「アルベール、生きていたか。」
「兄上!」
アルが馬車を降りると、長髪で黒い髪の、これまたとんでもない美形な男性が近付いてきた。
兄上って事は、第一王子?
私もマルクさんやロドルフさんに続いて一度馬車を降りると、第一王子は私を睨みつけた。
「なんだ、この小娘は。」
「探してた異世界からの客人だよ。花音、こちらは僕の兄上、ルイ第一王子。」
「お初にお目にかかります。」
そう言って片膝をつこうとすると、アルに止められた。
「堅苦しくなくて良いよ、花音。」
「ふん。礼儀作法を見せつけて王族に取り入ろうとは大した度胸だな。」
「兄さん!」
終始ルイ王子に睨まれてる気がする。
なに?私何かしちゃった?
ルイ王子はフンと鼻を鳴らすと城の方へスタスタ歩き始める。
それを見たアルが慌てて追っていく。
途中こちらを振り返って、
「すまない花音、また後ほど会おう。」
と言い残して、出迎えの従者に身体を支えられながら城の中へと消えていった。
なんか、ルイ王子はあまり歓迎してくれてないみたい。
「申し訳ありません花音様。馬車へ戻りましょう・・・馬車の中でルイ殿下についてお話しさせていただきますので。」
マルクさんに言われ、促されるがまま馬車へ乗り込み、私たちは魔法塔の方へ向かう。
ガタガタ揺れる馬車に乗ってたからお尻が痛い。腰を少しさすると、マルクさんがポツリポツリと重たそうな口を開けた。
「ルイ殿下は学問に明るい方でして、異世界からの民をあまりよく思われていないのです。」
「ほう・・・。」
「と言うのも、この世界ではかつて暗黒時代と呼ばれた時代がありまして。」
「あ、アル・・・ベール殿下から聞いてます。」
あぶねえ~!思わず愛称で呼ぶところだった~!
バレてないかな、とマルクさんを見ると少し微笑んでいた。
「殿下からそう呼ぶように言われたのでしょう?私どもの前では大丈夫ですよ。殿下の性格をよく知っておりますから。」
「す、すいません・・・。」
バレてた。しかも気を遣われてしまった。
「アルベール殿下は前世の事もあり、例え相手の前世が暗黒時代の罪人でも、異世界からの客人でも、関係なく接する方なのです。」
たしかアルも暗黒時代のやべえ奴って言ってたよね。自分がそうだから人に対しても差別意識とか無いのか。
私がうんうんと頷きながら聞いていると、マルクさんは真剣な目でこちらに語りかける。
「殿下からは、異世界からの客人がどのようにしてこちらに来るのか、ご説明はありましたか?」
「いえ、特に何も。」
そうですか、とため息をつくマルクさんに何やら重苦しい空気を感じた。
「通常、異世界から自然に人が迷い込む事はありません。ではなぜ花音様がここに居るのか。異世界の者を『召喚した』からなのです。」
「召喚?」
「はい。異世界からの人の召喚は禁忌とされています。ではそんな禁忌を犯しているのは誰か。」
生唾がごくりと喉を鳴らす。
シーンとした静寂の中、馬の足音と馬車のタイヤの音だけが響く。
その静寂を破ってマルクさんの口が開く。
「暗黒時代を作った女帝の婚約者の生まれ変わりにして隣国の現国王です。」
隣の国の王が、私をこの世界に呼び寄せた?
ど、どう言う事?
あまり事態を飲み込めてない私にマルクさんは続けて説明をしてくれた。
「隣国の王は暗黒時代の再来を望んでいるのです。かつて暗黒時代を生み出した人々の生まれ変わりを異世界から召喚し、仲間にしようとしているのです。」
「つまり、私も暗黒時代を生み出した奴らの生まれ変わりだと?」
「はい。なので花音様は魔法が使えるはずです。魔法の説明は殿下から聞いておりましたか?」
「何となくは・・・前世の罪を贖罪する為に与えられた力だと。」
「その通りでございます。」
ロドルフさんは不安そうな私の手にそっと手を重ねてくれた。
その優しさに心が少しだけ楽になる。
だから恐る恐るではあるが、正直に答えることにした。
「アルは、私は雷属性の魔法使いで、魔力が強いと言っていました。」
「なんと・・・!」
マルクさんだけではなく、聞いていたロドルフさんまでもが目を丸くしている。
え?確かにアルは魔力が強いから驚かれる的なこと言ってたけど、こんな世紀末ですみたいな反応されるもんなの?
私が訳もわからず2人の顔を交互に伺うと、マルクさんは馬車の外を眺めた。
「もうすぐ魔法塔です。私の口から聞くより、専門である彼らから聞いた方が良いでしょう。」
魔法塔は塔と言うだけあって、見上げると首が痛くなるくらい高い建物だった。
塔の前に止まった馬車から降りると、門の前ではすでに初老の男性と若い男性が待っていてくれた。
いかにも魔法職!って感じの暗い色のローブを纏っているけど、初老の男性はマルクさんのような上品なイケオジ。メガネがとても素敵だ。
若い男性は肩のところまで伸びた青色の髪がミステリアスな、微笑が映える中性的なイケメン。
やっぱりこの世界には美形しかいないらしい。
「花音様でお間違えないでしょうか。」
初老の男性は落ち着きのある声で私の名前を確認した。
マルクさんが柔らかな声に対し、こちらは理知的な芯の通った感じの声で、これまた耳に心地良い。
「はい、私です。」
そう答えると初老の男性は丁寧に頭を下げたのち、
「では早速ですが中へ」
そう言って私たちを中へ入れてくれた。
「ああ、名は花音と言うらしい。」
馬車の中に乗せられた私たちはガタガタと揺らされながら王都へ向かっている。
馬車の中には私、アル、ロドルフさん、そして初老の男性。
彼はマルクさん、彼の専属執事らしい。
白髪混じりの髪、口元には髭があり、優しそうなイケおじ。本当にこの世界は美形しかいないのではと不安になって来た。
そして何より私は王子にタメ口、愛称呼び、魔法を使ってくれとこき使うというとんでも三拍子をしてしまってるから、いつ首を刎ねられるかとビクビクしながら馬車に乗っている。
正直生きた心地しない。
「花音様。」
「は、はいっ!」
マルクさんに名前を呼ばれて、ただでさえ伸びてた背筋が更にピンと伸びる。
な、何言われるんだろう…。
「殿下を助けて下さり、本当にありがとうございます。」
そういって深々と頭を下げるマルクさんに、想像とは違う反応が来て一瞬固まったけど、すぐに頭を上げる様促した。
「私は何もしてませんよ!」
「いえ、怪我をした殿下の手当、洞窟からの移動、食事、我々に居場所を伝えるために狼煙を上げる。本当に感謝しかありません。」
「あのまま洞窟にいたら僕は死んでいたかもしれない。花音が居てくれて良かったと思ってるんだ。自信を持ってくれ。」
ロドルフさんに続いてマルクさんやアルにまで感謝されるとは思わず、いつ首を刎ねられるかと構えていた緊張が解けて、どっと汗が吹き出した。手汗で手のひらがぬるつくくらいには。
「本来であれば感謝のための褒美を今すぐに授けたい所ですが、花音様は今から魔法塔の方へ向かわなくてはなりません。申し訳ありませんがご協力をお願いいたします。」
19歳の小娘に深々と頭を下げて低姿勢なマルクさん。とっても誠実で人を見た目で判断しない人で、とても好感が持てる。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」
「ご丁寧にありがとうございます。殿下は一度城へお戻りください。」
「え?俺身元保証人になるつもりだったんだけど。」
また一人称が俺になってる。きっとロドルフさんやマルクさんには気を許してるんだろうな。
でも3日遭難してたのについてくるって言うのは私としても申し訳なさ過ぎる気もする。
「そう言うと思って委任状を用意しております。こちらにサインを頂ければ我々が花音様を魔法塔までお連れいたします。」
アルはまだ半分納得がいってない様な顔をしていたが、サラサラっとその紙に筆を走らせた。
「アルベール様のサイン、確かに賜りました。では先に王城へ向かったのち、魔法塔へ向かいます。」
マルクさんが委任状を丸めて紐で留めたのちにそう告げた。
一度ここでアルと離れるのは、こっちに来てからずっと一緒だったからちょっと心細いけど、マルクさんが一緒なら大丈夫そう。
ふうっと一つ息をつくと、ロドルフさんが私をジロジロと見ていることに気づいた。
「あの・・・何かありましたか・・・?」
「あっ、も、申し訳ありません・・・異世界と聞いて、服の素材や持ち物がとても気になって・・・」
今の私はウインドブレーカー上下、その中にジャージ上下。背中にはリュック、手にはよもぎ入りのレジ袋。
確かに、ロドルフさんやマルクさんたちを見る限り、中世前後のヨーロッパっぽい見た目をしている。
レジ袋やウィンドブレーカーは確かに気になるか。
「レジ袋は・・・あ、触ってみます?」
「いいのか・・・?」
ロドルフさんが遠慮がちに、それでいて興味津々に、目を輝かせながらレジ袋に触れた。
「薄いのにこんなにも丈夫なのか・・・不思議だ・・・」
「私も素材とか、どうやって作られてるかとかは詳しくないですが、割と一般的に普及してる物ですね。」
ロドルフさんは中に入ってたよもぎを見て目を丸くした。
「薬草がこんなに!?」
「ああ、それでアルベール殿下を手当しました。」
「そなたは薬学の知識があるのか・・・」
「それが薬草だということは知ってますけど、本格的な事は知らないですよ。」
調合とかはよく分からない。
専門的に勉強なんてしたこともないしね。
「どうだ、花音は凄いだろう?」
なぜかアルがドヤ顔してる。
いや、ただおばあちゃんから教わっただけだよ。
傷にはよもぎ、火傷にはアロエだって耳がタコになるだけ聞いただけ。
って言っても今度はそなたの祖母上は学者なのかとか言われそうで、面倒だから黙っておくことにした。
馬車に揺られること数十分。マルクさんが馬車を走らせている人と一言交わすと私に声をかけてくれた。
「花音様、こちらがわが国の王城でございます。」
って事はここでアルと別れるのか。
そう思って窓の外をチラリと見ると、とんでもなく大きなお城が見えた。
「Wow。」
思わずそう声が出た。
何これ、外壁は汚れひとつ見当たらない綺麗な白。
城壁と外門を通り抜けると丁寧に手入れされているであろう植物が出迎えてくれる。
絵本とかに出てくるお城そのもので、現実味が湧かない。ここにアルが住んでるの?王子として?
空いた口が塞がらないまま城の門の前で止まった馬車、するとすぐに声が飛んできた。
「アルベール、生きていたか。」
「兄上!」
アルが馬車を降りると、長髪で黒い髪の、これまたとんでもない美形な男性が近付いてきた。
兄上って事は、第一王子?
私もマルクさんやロドルフさんに続いて一度馬車を降りると、第一王子は私を睨みつけた。
「なんだ、この小娘は。」
「探してた異世界からの客人だよ。花音、こちらは僕の兄上、ルイ第一王子。」
「お初にお目にかかります。」
そう言って片膝をつこうとすると、アルに止められた。
「堅苦しくなくて良いよ、花音。」
「ふん。礼儀作法を見せつけて王族に取り入ろうとは大した度胸だな。」
「兄さん!」
終始ルイ王子に睨まれてる気がする。
なに?私何かしちゃった?
ルイ王子はフンと鼻を鳴らすと城の方へスタスタ歩き始める。
それを見たアルが慌てて追っていく。
途中こちらを振り返って、
「すまない花音、また後ほど会おう。」
と言い残して、出迎えの従者に身体を支えられながら城の中へと消えていった。
なんか、ルイ王子はあまり歓迎してくれてないみたい。
「申し訳ありません花音様。馬車へ戻りましょう・・・馬車の中でルイ殿下についてお話しさせていただきますので。」
マルクさんに言われ、促されるがまま馬車へ乗り込み、私たちは魔法塔の方へ向かう。
ガタガタ揺れる馬車に乗ってたからお尻が痛い。腰を少しさすると、マルクさんがポツリポツリと重たそうな口を開けた。
「ルイ殿下は学問に明るい方でして、異世界からの民をあまりよく思われていないのです。」
「ほう・・・。」
「と言うのも、この世界ではかつて暗黒時代と呼ばれた時代がありまして。」
「あ、アル・・・ベール殿下から聞いてます。」
あぶねえ~!思わず愛称で呼ぶところだった~!
バレてないかな、とマルクさんを見ると少し微笑んでいた。
「殿下からそう呼ぶように言われたのでしょう?私どもの前では大丈夫ですよ。殿下の性格をよく知っておりますから。」
「す、すいません・・・。」
バレてた。しかも気を遣われてしまった。
「アルベール殿下は前世の事もあり、例え相手の前世が暗黒時代の罪人でも、異世界からの客人でも、関係なく接する方なのです。」
たしかアルも暗黒時代のやべえ奴って言ってたよね。自分がそうだから人に対しても差別意識とか無いのか。
私がうんうんと頷きながら聞いていると、マルクさんは真剣な目でこちらに語りかける。
「殿下からは、異世界からの客人がどのようにしてこちらに来るのか、ご説明はありましたか?」
「いえ、特に何も。」
そうですか、とため息をつくマルクさんに何やら重苦しい空気を感じた。
「通常、異世界から自然に人が迷い込む事はありません。ではなぜ花音様がここに居るのか。異世界の者を『召喚した』からなのです。」
「召喚?」
「はい。異世界からの人の召喚は禁忌とされています。ではそんな禁忌を犯しているのは誰か。」
生唾がごくりと喉を鳴らす。
シーンとした静寂の中、馬の足音と馬車のタイヤの音だけが響く。
その静寂を破ってマルクさんの口が開く。
「暗黒時代を作った女帝の婚約者の生まれ変わりにして隣国の現国王です。」
隣の国の王が、私をこの世界に呼び寄せた?
ど、どう言う事?
あまり事態を飲み込めてない私にマルクさんは続けて説明をしてくれた。
「隣国の王は暗黒時代の再来を望んでいるのです。かつて暗黒時代を生み出した人々の生まれ変わりを異世界から召喚し、仲間にしようとしているのです。」
「つまり、私も暗黒時代を生み出した奴らの生まれ変わりだと?」
「はい。なので花音様は魔法が使えるはずです。魔法の説明は殿下から聞いておりましたか?」
「何となくは・・・前世の罪を贖罪する為に与えられた力だと。」
「その通りでございます。」
ロドルフさんは不安そうな私の手にそっと手を重ねてくれた。
その優しさに心が少しだけ楽になる。
だから恐る恐るではあるが、正直に答えることにした。
「アルは、私は雷属性の魔法使いで、魔力が強いと言っていました。」
「なんと・・・!」
マルクさんだけではなく、聞いていたロドルフさんまでもが目を丸くしている。
え?確かにアルは魔力が強いから驚かれる的なこと言ってたけど、こんな世紀末ですみたいな反応されるもんなの?
私が訳もわからず2人の顔を交互に伺うと、マルクさんは馬車の外を眺めた。
「もうすぐ魔法塔です。私の口から聞くより、専門である彼らから聞いた方が良いでしょう。」
魔法塔は塔と言うだけあって、見上げると首が痛くなるくらい高い建物だった。
塔の前に止まった馬車から降りると、門の前ではすでに初老の男性と若い男性が待っていてくれた。
いかにも魔法職!って感じの暗い色のローブを纏っているけど、初老の男性はマルクさんのような上品なイケオジ。メガネがとても素敵だ。
若い男性は肩のところまで伸びた青色の髪がミステリアスな、微笑が映える中性的なイケメン。
やっぱりこの世界には美形しかいないらしい。
「花音様でお間違えないでしょうか。」
初老の男性は落ち着きのある声で私の名前を確認した。
マルクさんが柔らかな声に対し、こちらは理知的な芯の通った感じの声で、これまた耳に心地良い。
「はい、私です。」
そう答えると初老の男性は丁寧に頭を下げたのち、
「では早速ですが中へ」
そう言って私たちを中へ入れてくれた。
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