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鎮魂祭
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鎮魂祭当日。私たちは貴族や王族の墓に向かう。王妃や王女が眠っているのもここ。……銀翼の王女は、ここに眠っていないけど。
エルとあずさが前を歩き、その後を私とウィリアムがついていく。
「銀翼の王女って、十三の時に殺されたんですよね」
「ええ。そうですね」
まるで他人事のように、彼女に王女のことを話す。ウィリアムが無理するなとジェスチャーを送るが、見なかったことにして話を続けていく。
「十三の頃、私は暢気に学校に通っていました。まぁ、友達と呼べる人はいなかったんですけど」
責任とかが大嫌いだった彼女は、何もせずに学生生活を浪費していったそうだ。だから、いきなり聖女に祀りあげられてどうすれば良いかわからなかったと。
「だから、ウィリアム様、エルヴィン様、そしてエステルさん。支えてくれてありがとうございます」
この機会しか無かった。ありがとうって伝えるには。彼女はそう言った。
『オ前にそんなコトを言って貰えル権利ハあるのカ?』
幻聴。耳を通さずに、頭に響く声。
『お前ハあの場所デ死ヌ運命だっタ』
そうだ。私の心は今も、ここに置いてきぼりだ。それはもう、死んでいるようなものだろう?
『……なぜ今ものうのうと生きている?』
『なぜ一緒に来てくれなかった?』
「お母様……?」
『死にながら生き続け、生きながら死に続けるか。醜いな』
そう。銀翼の王女は紛れもなくここで死んだんだ。五年前の、ちょうどこの日に。
ゆっくりと墓に引きずり込まれていく。手足は動かない。何かに縛られているような。
「あっ……」
連れていきたいならそうすれば良い。それで気が済むのなら、そうしてくれないか。
「墓場から闇がっ!」
「エルヴィンっ! そっちは任せた」
「任せたって言われたって、僕には何も見えないんだけど……」
私が入るべきだった墓。ようやくだ。ようやくお母様のいる所に行ける。
でも、私を呼んでいる声が聞こえる。駆け寄る足音が聞こえる。
「エステルさんっ!」
「……あずさ、様」
「良かった、間に合いました」
何が、間に合ったんだろう。もうすぐお母様の所に行けたのに。
「私は」
行きたかった。行かせてほしかった。どうして、止めるの。
「たくさんのお墓から闇が出てきて。なんか知らないうちに蓋が開いてて。エステルさんはそこに引きずり込まれそうになってました」
「……」
闇。あれはお母様じゃなかったんだ。少しの安心と、たくさんの落胆。たとえ私を呪い殺すものだったとしても、母であってほしかった。
優しくて厳しい、私の知っているお母様であってほしかった。
「エステルさんが居なくなるなんて……絶対に嫌です」
「僕もエステルがいなくなっちゃうのは絶対に嫌だ。昔のことはよく知らないけど、それでも」
一緒にいてほしい。二人はそう言った。嘘偽りのない、輝いた眼で。
「……行きませんよ、どこにも。なによりウィリアム様がそんなこと許してくれません」
私は、大嘘つきだ。本当に、嘘ばっかり。本音も真実も隠して、つぎはぎのメイドを演じている。……あずさやエルヴィンと一緒にいたいのは、本当だけど。
「エステル、人の権力を防波堤代わりにしないでくれよ。それにそろそろ、素直に言えば良いんじゃないかな?」
「……今は、まだ言えないです。疲れたので、屋敷で休んできます」
「一緒に行くよ。また倒れられたら困る」
「ありがとうございます、ウィリアム様」
私とウィリアムは、二人で屋敷の方に戻る。エルとあずさを墓地に残したまま。
エルとあずさが前を歩き、その後を私とウィリアムがついていく。
「銀翼の王女って、十三の時に殺されたんですよね」
「ええ。そうですね」
まるで他人事のように、彼女に王女のことを話す。ウィリアムが無理するなとジェスチャーを送るが、見なかったことにして話を続けていく。
「十三の頃、私は暢気に学校に通っていました。まぁ、友達と呼べる人はいなかったんですけど」
責任とかが大嫌いだった彼女は、何もせずに学生生活を浪費していったそうだ。だから、いきなり聖女に祀りあげられてどうすれば良いかわからなかったと。
「だから、ウィリアム様、エルヴィン様、そしてエステルさん。支えてくれてありがとうございます」
この機会しか無かった。ありがとうって伝えるには。彼女はそう言った。
『オ前にそんなコトを言って貰えル権利ハあるのカ?』
幻聴。耳を通さずに、頭に響く声。
『お前ハあの場所デ死ヌ運命だっタ』
そうだ。私の心は今も、ここに置いてきぼりだ。それはもう、死んでいるようなものだろう?
『……なぜ今ものうのうと生きている?』
『なぜ一緒に来てくれなかった?』
「お母様……?」
『死にながら生き続け、生きながら死に続けるか。醜いな』
そう。銀翼の王女は紛れもなくここで死んだんだ。五年前の、ちょうどこの日に。
ゆっくりと墓に引きずり込まれていく。手足は動かない。何かに縛られているような。
「あっ……」
連れていきたいならそうすれば良い。それで気が済むのなら、そうしてくれないか。
「墓場から闇がっ!」
「エルヴィンっ! そっちは任せた」
「任せたって言われたって、僕には何も見えないんだけど……」
私が入るべきだった墓。ようやくだ。ようやくお母様のいる所に行ける。
でも、私を呼んでいる声が聞こえる。駆け寄る足音が聞こえる。
「エステルさんっ!」
「……あずさ、様」
「良かった、間に合いました」
何が、間に合ったんだろう。もうすぐお母様の所に行けたのに。
「私は」
行きたかった。行かせてほしかった。どうして、止めるの。
「たくさんのお墓から闇が出てきて。なんか知らないうちに蓋が開いてて。エステルさんはそこに引きずり込まれそうになってました」
「……」
闇。あれはお母様じゃなかったんだ。少しの安心と、たくさんの落胆。たとえ私を呪い殺すものだったとしても、母であってほしかった。
優しくて厳しい、私の知っているお母様であってほしかった。
「エステルさんが居なくなるなんて……絶対に嫌です」
「僕もエステルがいなくなっちゃうのは絶対に嫌だ。昔のことはよく知らないけど、それでも」
一緒にいてほしい。二人はそう言った。嘘偽りのない、輝いた眼で。
「……行きませんよ、どこにも。なによりウィリアム様がそんなこと許してくれません」
私は、大嘘つきだ。本当に、嘘ばっかり。本音も真実も隠して、つぎはぎのメイドを演じている。……あずさやエルヴィンと一緒にいたいのは、本当だけど。
「エステル、人の権力を防波堤代わりにしないでくれよ。それにそろそろ、素直に言えば良いんじゃないかな?」
「……今は、まだ言えないです。疲れたので、屋敷で休んできます」
「一緒に行くよ。また倒れられたら困る」
「ありがとうございます、ウィリアム様」
私とウィリアムは、二人で屋敷の方に戻る。エルとあずさを墓地に残したまま。
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