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銀色

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 私とウィリアムは、とある部屋へ――――五年前にとある王妃と王女が殺された部屋に向かう。ふらつく足、ぼやける視界。ウィリアムが肩を貸してくれなかったら、多分倒れていた。

「無理して行かなくても……」

「いえ。私が行きたいんです。お母様が生きてた証拠を、確認したいんです」

 何年も前に片付けられた部屋。埃の一つも落ちていない部屋。人の温もりも、何も、残っていない。残っているはずがない。

 ここには、もういない。

「もう行こう。これ以上は、辛くなるだけだ」

「……」

 涙。床に染み込む。嫌だ。怖い。なくなるのが、怖い。

「エステル、今日はもう休もう」

「……」

 待って。まだ行かないで。私を置いていかないで。

「エステルっ!」

 ウィリアムが私を抱き締める。鼓動、乱れた呼吸。私は彼の胸に頭を預ける。背を撫でる大きな手。震えた手。

 多分私以上に、動揺している。あれから五年。まだたった五年しか経っていないんだ。流れに任せて生き延びた私よりも、彼の方がずっと辛い思いをしてきたんだと思う。

「……ウィリアム、様」

「戻ろう」

「どうして」

「今の君を、メイドのエステルを待っている人がいる。それ以上でもそれ以外でも無いよ。……それとも、他の理由が必要かい?」

 今の私を必要としてくれる人がいる。それだけで、私は。

「……いえ。大丈夫です。戻りましょう。この後は、全部予定通りに進めていただいて構いません」

「本当に、大丈夫かい?」

「そちらこそ、そんな状態で大丈夫なんですか?」

「……が大丈夫だったことなんて、あると思う?」

「無かったですね」

「即答かぁ。お姫さまは、なんでもお見通しなんだね」

「今の私はただのメイドです。それ以上でもそれ以外でもありません。銀翼の王女は王妃と共にここで死にました。でしょう?」

「そうだね。君は五年前、ここで死んだことになった。でも僕は君のことを――――」

 君のことを。

 これ以上は言わせちゃいけない。惚れた腫れたならまだ良いけれど、その言葉だけは本当に国家を揺るがす可能性があるから。

「……それ以上は言わないでください。私はもう行きますから」

「そうだね。君は昔から、そうだったよ」
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