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#7 ガラスの小瓶 (悲しみ)

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 それは小さな、ごく小さな粒のように些細なことかもしれない。小さな粒は日に日に数を増していき、私のガラスの瓶の中でサラサラと音をたてていた。ほんの些細な出来事の積み重ね。

 それは幸せの絶頂であるはずの結婚当初から始まっていたのだから、結婚10年の今となってはとてつもない粒の塊になってしまった。

「夫が、憎いんです」

 ポツリと私は呟いた。口に出すのは初めてだった。

 夫とは職場で出会った。よく気がついて、誰にでも優しくて、皆を楽しませてくれるムードメーカーみたいな人だ。よく告白されているのを目撃したが、付き合ってる人がいるとは聞いたことがない。私は夫の上司と付き合っていたので、彼と3人でよく飲みに行っていた。ほどなくして彼が転勤し、自然に別れることになった。

「俺と付き合ってくれない?」

 夫が笑いながら言うので冗談かと思ったら、付き合うことになってしまった。彼といるより、夫といる方が楽しいし落ち着く存在だということに前々から感じていたからだ。

 付き合えばもっと好きになり、私達は3カ月後に夫婦になった。幸せのはず、が不安だらけ……夫の周りには常に女友達の影があるからだ。ホントに友達? と疑う私がいる。デート中のメールの多さ、遊びに行く頻度の多さに辟易する。なのに、夫に付き合いをヤメてと言えない。ヤキモチや束縛が大嫌いな夫に嫌われたくないから。

 だから、私は心に瓶を置く。今日も帰りが遅いと気にしては、ひと粒ポトンと瓶に入れる。誰かに買ってあげたピアスのレシートを見つけては、また瓶に小粒を溜めていく。

「おまえもオシャレに気を使え」

「なんで俺の休みをおまえに合わせる必要があるんだ」

「たまには遊んでこいよ」

 私といる時間より、他の人といる時間の方が長いんじゃない? そう思いながら何故、10年も一緒にいたのだろう。

 ああ、私はまだ夫が好きなんだ。涙がひと粒、ガラスの瓶にポトンと落ちた。

「気づくのが遅いですよね」

 私は泣きながら笑顔を見せた。前に座り、じっと話しを聞いてくれた弁護士さんは悲しそうに言った。

「気がついていれば、違った未来があったかもしれませんね」

「本当ね。夫を殺す前に、自分の気持ちを吐き出していれば良かったわ」

 涙の入った瓶に、私は静かに蓋をした。
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