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第二章
希望の歓声
しおりを挟む「ぅ...」
規則的な振動を感じて目を覚ます。はっきりしない意識の中、いくつかの足音が聞こえてくる。
「お、目が覚めたか?」
声が聞こえて、視界が徐々にはっきりしてくる。顔を向けると、見知らぬ男の顔が目の前にあった。
どうやら俺は、その男に背負われているようだった。
くたびれた顔に無精髭が浮かんでいて少し暗い印象だが、薄く微笑んでこちらを見ている。
悪い人じゃなさそうだけど...。
「ぁ、はい...ええと、あなたは...?」
ここはどこなのか。何故俺は彼に背負われているのか。
寝起き的なアレと、頭痛のせいで上手く言葉が出なかったが、幾つか生まれた疑問のうちの一つを投げる。
倦怠感も強烈だ。
話を聞くとどうやら彼らこそが最初に消息不明となったSランクパーティーたちだったらしい。
「まぁ、俺とこいつの二人は銀狼っつー別パーティーなんだがな」
そしてどうやら俺はあのまま意識を失い、地面の崩落に呑まれて下の階層に落ち倒れていたらしい。そこを彼らが見つけてくれたというわけだ。
すごい偶然だな...。この広いダンジョンの中、たまたま近くにいてくれたなんて。
もし見つけてくれなかったらどうなってたんだろう。
そう考えると奇跡的な運の良さだ。
とにかく、彼らには感謝しかない。
そして彼らの話を聞いた上で今までの経緯をまとめるとこんな感じだ。
スタンピードの原因調査中にダンジョンが見つかり、増員して森の調査と内部の調査を同時進行することに
→"疾風の狩人"と"銀狼"の二パーティーでダンジョンに踏み込むも、崩落トラップで疾風全員と銀狼の二人が下層へ
→巻き込まれなかったメンバーが街に向かい、ダンジョンでの出来事がギルドや領主に伝わる
→救援のために冒険者と騎士が派遣されるが、ダンジョンに踏み込んだ捜索メンバーたちも戻ってこなくなる
→そこにさらに俺たちが突入して今に至る...という事になる。
...こう考えると、なんというか...前世で、災害とか事故の時によく「二次災害を防ぐ~」みたいなことを聞いたけど、まさにそれだな...。
ていうか、二次どころか三次になりかけてたじゃん。
...まあ、俺たちが無事に帰還すれば結果オーライってことか。
そして、俺が最初に森の外で助けたのはこの二人の仲間だったというわけだ。彼らの無事を伝えると、
「まじか...お前があいつらを...そうか、無事でよかった」
「ありがとう。今後、何かあったら言ってくれ。俺たちでできる事なら力になるぜ」
と安堵の笑みを浮かべながら感謝して言ってくれた。
そのために助けたわけじゃないけど、それでもやっぱり嬉しいな。
「で、お前はなんであんなとこに倒れてたんだよ。それに、そのバカでけぇ魔石はどうした?俺たちですら中々手に入らねぇサイズだぞ」
と、疾風の一人、シアベと名乗った男が聞いてくる。
もう何日もダンジョンを歩き回っているというのに少しの疲れも見せず、両眼は鋭い眼光を放っている。
これがSランクパーティーか...。
そう感心しながら、バカみたいにデカいゴーレムがいたという事や、その戦いの結果地面が崩壊した事を伝える。
伝え終えると、俺は彼の反応を横目にあの時のことを思い出していた。
「てことは、二層も落ちたとは考えにくいな。となるとここが───」
───結局、あの力はなんなんだろう。それに、前のは金色だったけど今回のは銀色だったし...。
それに特に使おうと思ったわけでもないのに、なんで使えたんだ?普段は使ってみようとしても無理なのに。
いや、そういえばなんかアナウンスがあったような気がする...けど、よく思い出せないな。
ていうか、毎回意識を失うような危ないスキルなのか?
そうして考え込んでいると、やがて一本道の先に上へと伸びる階段が現れた。
これで帰れる。俺はほっと胸を撫で下ろした。
その頃には体も少し楽になっていたので、感謝を伝えつつ男の背中から降りる。
もちろん、彼も疲れているだろうから迷惑だろうと初めの方に降りることを申し出たのだが、無理をするなと言われ、ここまでおぶられたままだったのだ。
ビューラーもそうだけど...冒険者って、なんだかんだ優しい人ばっかだな...。帰ったら、メシでも奢ろう。
と、リーダーの男が口を開く。自然と聴き入ってしまうような不思議な力を持った声だ。
「おそらく、この先が三層だ。だがまたトラップでも踏んだら目も当てられん。気を引き締めて行くぞ」
その言葉に緩みかけていた空気が音を立てるようにピシリと締まった。
そうだ、まだ気は抜けないんだった...。
俺は頬を軽く叩いて気合を入れ、そうして俺たちは慎重に階段を登って行くのだった───。
階段を登り切って、皆で注意深く周囲を警戒しながらしばらく進む。
と、通路の真ん中に人だかりが見えた。一緒に広間で戦った人たちだ。
「あれは...疾風が戻って来たぞ!」
「本当か!?」
「あの小僧も一緒じゃねぇか!」
俺たちは帰還の希望が大きくなったことに。彼らは捜索対象の無事に。互いに歓喜の笑みが広がった。
「よく無事に戻ってこれたな」
と言いながら近寄ってくるビューラーに、俺は背中に隠していた魔石を見せつける。
「でけぇ...」
「ゴーレムのやつだ...ですよ」
「中々お目に掛かれねぇぞこんなの。売ったらいくらになるか...」
彼の後ろの冒険者や騎士たちも目を剥いて驚いている様子で、嬉しさや誇らしさが一気に込み上げてきて。
俺は笑みを浮かべて声を張り上げた。
「帰ったらこれで──パーっとやるぞ!!」
「「「うおおおおお!!!」」」
その一言に喜声が爆発し、ヒューと口笛が鳴る。
あまりの声量に一瞬ビビる。
まるで散々振りまくったコーラを開けた時のような勢いだ。
「突っ込む時でもこんな声量出てなかったじゃん」
俺の言葉は瞬く間に歓喜の渦に飲み込まれ、誰の耳にも届かず消えた。
この地下に広がった喜色満面の底抜けに明るい歓声が、どこかかけがえのないもののように思えて...俺は胸がじんわり熱を持つのを感じて頬を緩めて、半ば衝動的に、意味もなく一緒になって叫んだ───。
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