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第二章

Sランクに最も近い男

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 薄暗いダンジョン内部。

 「すまねぇ......」

 仲間の肩を借りてなんとか歩く一人の男が、消沈した様子で謝罪した。
 
 「おい謝るな」
 「そうだシアべ、お前のせいじゃない」 

 仲間がすかさずフォローを飛ばすが、"疾風の狩人"の斥候、シアべは暗い表情で俯いたまま。

 「いや...俺は斥候なのにあの罠に気付けなかった」

 危機的状況においては、皆で前を向かなければならない。
 熟練の冒険者ならば当然に熟知していることであるが、事態が事態なだけに、シアべは自分を許せなかった。

 「別に油断してた訳じゃないんだろ?それにあんな罠、聞いたことがない」
 
 「そうだぜ、あれは反則だ」

 二人がシアべを慰める中、先頭の一人が声を上げる。

 「前方、右...1!」

 ピタリと会話が止まりパーティ全体に緊張が走る。

 「カウント!─── 5...4...3...2...」

 「1!」

 瞬間、矢と、石弾や氷槍の魔法が立て続けに射出され、前方の曲がり角目掛けて飛んでいく。

 角から一つの影が飛び出てくると同時、攻撃が着弾する。
 
 明らかな奇襲攻撃。
 Sランクパーティから放たれた意識外の攻撃は、Bランク程度の魔物であれば即死させ、Aランクに対しても決して小さくないダメージを与える程の威力を秘めている。

 しかし。

 「ま、全く効いてないぞ...!」
 
 その結果に、後尾の別パーティの冒険者が悲鳴にも似た驚愕の声を上げる。

 「慌てるな。想定内だ」
 
 "疾風の狩人"リーダー、ウォーカーは、そう言って短剣を抜き、駆け出しながら指示を飛ばす。

 「陣形、"硬速"!」

 先頭に立ち、突進して来た魔物の攻撃を受け止める。

 魔物は、ウルフ系の魔物を機械化したようなフォルムであった。全身が強固な装甲で覆われている。
 その防御は簡単に遠距離攻撃の奇襲を跳ね返すほどに頑強だ。

 (狙うは頭部と関節部分の鎧の切れ目)

 魔物の外見とウォーカーの指示によって、パーティの意識が一つになる。


 ウォーカーが魔物の鋭利な爪を短剣で受け止め、叫ぶ。

 「今!」

 言って後ろに飛び退る。
 直後、入れ替わるように数十の石の弾丸が飛来し、魔物の体に着弾する。

 攻撃を受け止めて魔物の俊敏さを封じ、狙撃によって弱点を打つという作戦だ。

 ─── その狙い通り、前足の付け根のあたりから血が滴り落ちている。
 
 ウォーカーを筆頭に三人の前衛で魔物の動きを封じ、後衛の三人がタイミングを合わせて攻撃していく。

 
 それを何度か繰り返す頃には体のあちこちから血が垂れ落ちるようになり、動きも明らかに鈍っているように見えた。

 自身も背中を壁に預けながら魔法を放っていたシアべは、その様子に気を引き締めながらも勝利を確信する。

 (よし、もう少しで─── ッ!?)

 突然、魔物の鎧がガチャガチャと音を立てて外れ落ちたかと思うと、ウォーカーに向かって踊りかかった。

 突然の加速に他の二人は対応できない。
 しかし、ウォーカーは驚異的な反応で噛みつこうと開かれた口に短剣を噛ませて突進を受け止めた。
 身を屈めて左右から迫る両足の爪を回避すると、左手でナイフを抜き、下方から魔物の首元を突き刺した─── 。

 魔物は何度か痙攣を繰り返し、やがて動かなくなる。

 その様子に、チームワークを乱さぬために観戦に徹していた冒険者から感嘆の言葉が溢れる。

 「す、すげぇ......」
 「これがAランク上位...最もSに近いと言われる男か...」
 
 ウォーカーはそれを当然のこととして受け止めながら口を開いた。

 「現状を整理しよう」



 ─── 事件は、ダンジョン第三層の調査中に起きた。

 突然、両側の壁が崩れたかと思うと、そこからモンスターの大群が通路に雪崩れ込み、隊列が分断された。

 さらにそこで終わらず、地面が崩落。前方の集団は下層に落とされたのだ。

 シアべの怪我もその際に瓦礫に足を挟まれて負ったものである。

 そして目下の問題は、救援が期待できないために自力で地上に戻らなければならないという事と、ここが第何層であるかという事なのだが...。

 「この魔物の強さから見て、3~5層ほどスキップしたと考えるべきだろう」

 このダンジョンの脅威はトラップの凶悪性にある。

 警戒には全力を尽くしていたにも関わらず、第三層のものですら察知することが出来なかったほどだ。

 それなのにさらに下層、より凶悪さを増しているだろうトラップの数々を掻い潜って地上に戻らなければならない。
 当然、モンスターも一筋縄ではいかない。食料や回復薬にも限りがある。
 
 もしも万が一、もう一度崩落に巻き込まれるようなことがあれば生還は絶望だ。

 
 改めて突きつけられた厳然たる事実に、彼らは表情を強張らせた─── 。





 
 
 
 



 


 




 





 


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