伯爵家の三男は冒険者を目指す！

第二章

スタンピードの原因

　「......それは本当か？」

　フェルディナント伯爵領領都、冒険者ギルドが支部長マスター・フリーマンは、険しい顔で報告に訪れた冒険者に問い返した。

　報告内容は、領都近郊の森の調査結果である。

　ここ領都に魔物の大群が押し寄せたスタンピードの後、ギルドは当然、原因調査の指名依頼を出した。

　しかし一月経っても手がかりすら掴めず、その間に森の魔物の分布はほとんど元通りになっていた。

　何もないはずはない。そう確信しながら調査結果を待ち続け、事件から二ヶ月経った今日になって、ようやくその報告が来たのだが─── 。


「間違いない」

　そう言い切るのはAランク冒険者のシアべだ。

　彼のパーティ、"疾風の狩人"は調査探索のスペシャリストである。

　戦闘能力においてはあくまでそこそこといった程度であるにもかかわらず、その特筆した探索能力と貢献度からパーティランクは堂々のS。
　
　(その中でも斥候を担当するシアべが言うのなら、その通りなのだろう)

　そう思いつつも俄には信じ難い。

「しかし、まさかダンジョンとは......」

　
　彼の報告によれば、森の奥地で地中へと続く穴を発見し、その内部には洞窟型の地下迷宮ダンジョンが広がっていた。

　それを確認してすぐにシアべだけが報告に戻り、他のメンバーは残って内部の調査を続行しているという。

　
　ダンジョンが出現する事自体はそれほど珍しいことではない。

　そのうえ、内部からは希少な魔道具や財宝が産出されることもあるため、適切な管理ができれば莫大な利益を生む可能性すらある。

　故に本来ダンジョンの出現は、驚くべき事でもなければ、悲嘆するべき事でもないのだが...。
　
　
　問題は、予測される規模であった。

　スタンピードの原因がダンジョンにあるのだとすれば─── それが意味するところは、世界でも有数の超大型ダンジョンの出現という事になる。

　過去、ダンジョンの出現によってスタンピードが引き起こされたことは何度かあるが、いずれのダンジョンも未だ攻略には至っていない。

　
　フリーマンは頭を抱えた。

　伝説の英雄、リョウスケ・ニシダすらも攻略中に消息を絶ったと言われる災禍級ダンジョン。管理も攻略も不可能な、いつ爆発するとも知れぬ災いの元凶。


　それが、広大な森林の奥地とは言え、領都近郊の森に出現した可能性がある。

「いっそ、他に原因があってくれたなら......」


　悲嘆に暮れながらも、フリーマンの決断は早かった。

　すぐにダンジョン調査の増援パーティを送り込み、それと並行して外部の調査も続行させた。


　それからさらに一月が経った頃、彼の懸念は現実のものとなった。

　ダンジョンへの入り口が、新たに二つ発見されたのだった─── 。
　

　冒険者学校が長期休暇に入る、三週間ほど前のことである。