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第一章
ゼリルド・フォン・バルフェンド
しおりを挟む─── お前は選ばれた人間だ。
─── 我ら貴族は尊い存在である。
ゼリルド・フォン・バルフェンドは、幼い頃からそう教えられて育った。
民衆は貴族のために存在する所有物であり、好きに扱う権利がある。
─── そんな環境で、真っ直ぐに育つはずもない。
ゼリルドは、すぐに権力というものに夢中になった。気に入らないメイドや従僕に暴力を加えたり、クビにしたりはしょっちゅうだった。
腕力では敵わないであろう彼らが、貴族という権力の前では抵抗すら許されないということに快感を覚えてしまったのだ。
そんなある日。いつものように気に入らない従僕に制裁を加えようとすると、新入りの、自らと同い年くらいの生意気なメイドが彼に言った。
「ダメですよ、そんなことしちゃ」
ゼリルドは上から目線なその物言いに腹が立った。しかし殴ろうとすると、避けられた。彼は初めてのことに驚きながらも、いつもの言葉で威圧した。
「避けるな!クビにするぞ!!」
"クビ"の二文字をちらつかせれば、屋敷の人間は面白いくらいに何も出来なくなる。この生意気な女もすぐにおとなしくなる...はずだった。
「イヤですよどっちも」
─── 今まで、そんなメイドはいなかった。
なんなんだコイツは、と幼いゼリルドは困惑した。
それから、彼は自分でも理由がわからないままに、その少女を自身の専属にした。じっくり懲らしめてやろうと思ったのか、興味が湧いたのか、あるいは─── 。
彼女を専属にして少しした頃から、使用人への横暴はすっかり鳴りを潜めた。彼女に小言を言われるし、しばらくその笑顔が見られなくなるからだ。
そうして月日が流れていくうち、彼の中で少女─── リア─── の存在はどんどんと大きなものへとなっていった。
「ゼリルド様」
「ゼリルドでいい」
「ゼリルド、掃除したいのでどいて下さい」
「......」
「ちゃんと野菜も食べなきゃダメですよ。ほら」
「うぐっ...い、いきなり口に突っ込むな...」
「もう、また稽古サボったんですか」
「おはようございます。さっそく着替えますよ。...なんで赤くなってるんですか?」
「え、プレゼント...?あ、ありがとうございます」
不敬なまでの遠慮のなさに、たまに見せる素朴な笑顔。
何故かはわからなかったが、悪い気はしなかった。むしろ、ゼリルドはそれを気に入っていた。
そんなある日、ゼリルドは父から縁談を持ちかけられた。見合いに行った時、彼はようやく自身の気持ちに気が付いた。
─── いつの間にか、俺はあの女に夢中になっていた。
しかし、父はそれを許さなかった。
「貴族であるお前が、メイドのような下賎な者に心を奪われるなどあってはならない」
貴族としての誇りを持て、と。
─── 貴族ってのは、なんなんだ。
ゼリルドは思った。
共にある相手すら選べずに、何が自由、権力だ。一番大きな望みを捨てた先で得た冨や権威に、なんの価値があるというのか...。
結局、父によってリアは屋敷を追い出された。
いつかの誕生日に贈った髪飾りが─── いつも彼女が付けていた髪飾りが、脅迫状とともに届いたのは、その数日後の事だった─── 。
~~~~~~~~~~~~~~
信じられないほど貧相な宿屋で、俺からかい摘んだ説明を聞いた四番目はうんうんと唸ってからこう言った。
「とりあえず、うちに来い」
俺は迷わずに頷いた。
この女を取り戻した今、子爵家のために動く理由など存在しない。フェルディナント伯爵領に行くことは、子爵家や父へのいい意趣返しになるだろう。
俺の所有物に手を出したこと、必ず後悔させてやる。
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