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第一章

脱出

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 (え、なんでコイツもこんなとこいんの!?てかここどこ...!?)

 「な、なん─── 」

 「静かに」

 そう言ってゼリルドが視線で示した扉の先からは、あの男たちのものと思われる下品な笑い声がした。
  
 どうやらこいつも誘拐されたらしい...。

 「何やってんだ...」 

 「お前もだろ」
 
 つい自分のことを忘れて呆れてしまうと、すぐにごもっともな反論が飛んできた。

 部屋を見渡してみると、先ほど俺の目の前で攫われた少女も縛られた状態で横になっていた。まだ眠っているようだ。
 

 「とりあえず抜け出そう」

 まずは縄を解かなければと思い力を込めてみる。するとステータスの暴力で案外簡単に引きちぎることが出来てしまった。

 「...なんだお前、まさか普通に攫われたのか...?」

 「は?」

 攫われるのに普通とかあるのか...?

 拘束を破ろうとしないゼリルドの様子を怪訝に思いながら近づいてみると、何故かコイツだけ何重にも縛られていた。

 「おい、俺は─── 」

 ゼリルドは何かを言おうとしたかと思うと、眠ったままの少女の方を見て口を噤んだ。何か事情があるのだろうか。

 
 しかし、ここに長居しても良いことはないだろう。二人の縄を解く。

 「この子頼むよ」

 「...ああ」

 ゼリルドが少女を抱き上げたのを確認して、俺は扉を蹴破った。

 その先にいた、丸テーブルを囲んで酒を飲んでいた三人が、俺の姿を見て叫びながら立ち上がる。

 「何してんだテ─── ぶばっ...!」

 俺は言い終わる前に男の腹に拳を叩き込み、

 「何しやがるクソガキ!」

 いきり立つ二人も殴り飛ばして黙らせた。
 
 「脳筋かよ...」

 後ろから飛んできた呆れ声に内心で反論する。俺をあの筋肉ゴリラと一緒にするな。

 
 丸テーブルの向こうにあった扉を開けると、その先には上へと続く階段があった。階段を登り、小汚い倉庫のような部屋に出る。

 どうやらあそこは地下室だったようだ。
 
 ガタガタな扉を押し開けて外に出る。攫われてから思ったより時間は経っていなかったようで、まだ真っ暗というわけではなかった。

 しかしあたりはどこか淀んだ空気が漂っていて、あまり長居したくないような場所だった。暗い目をして座り込んだ人がちらほらといる。

 
 俺は意外なほど従順なゼリルドを引き連れて、宿へと戻った。
 
 正直あまり関わりたくはない。
 けれど彼に事情があるのは明らかだったし、今日のゼリルドは落ち着いていて、決闘騒ぎの時のような雰囲気はない。

 
 二人部屋を取って、片方のベッドに少女を寝かせる。もう一つのベッドにゼリルドを座らせ、俺は申し訳程度に置かれた粗末な椅子に腰を下ろした。


 「一体何があったんだ?」

 開口一番、単刀直入に俺が問うと、彼はふっと自嘲気味な笑みを浮かべてから話し始めた。

 どうやら、ゼリルドは脅されて自ら盗賊連中に捕まったらしい。相手はハングレー子爵で、その盗賊は子爵の指示で動いていたという。

 「何を脅されてたんだ?」

 「あぁ...そこの女だ。その女はうちのメイドでな、行方不明になっていたんだ。ある日部屋に手紙が差し込まれていた。言うことを聞かなければ...ってな」

 それが一ヶ月と少し前のことだという。ちょうど、決闘騒ぎの時期だ。

 「...もしかして、あの時も?」
 
 「まあな」

 子爵の目的は、バルフェンド伯爵家とフェルディナント伯爵家の関係に亀裂を入れることだという。

 両家が第二王子派として手を結んでしまえば、両家に挟まれている第一王子派の子爵家は窮地に立たされる。


 つまり少女はゼリルドを動かすための人質に取られ、その後ゼリルドはバルフェンド伯爵家を動かすための人質に取られたというわけだ。

 
 ...言っていることはわかる。しかしいまいちピンとこない。

 それに、すでに眠気と疲労で俺の脳はパンパンだった。


 どうやら、俺はこういう裏のあれこれが苦手なようだ。剣を振っている方がしっくり......なんだか、脳筋化しているような気がする......。

 ─── よし、とりあえずこの二人は連れて帰ろう。そして父さんに丸投げしよう......!

 
 適材適所である。

  




 

 

 

 




 
 
 


 




 

 
 
 
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