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第一章
護衛実習
しおりを挟む「もっとキビキビ走りなさい!それじゃあ護衛になりませんよ!」
「は、はひぃっ......」
「はぁ、はぁ...が、頑張ろうエマ...もうちょっとで交代のはず...!」
俺たちは今、護衛依頼の一環だとか訳のわからない理由で馬車と並走させられていた。
「教官って生き物はこんなんばっかなのか......?なぁ、エル」
ちょっと、巻き添えくらうから話しかけないでくれ。
「何か言いましたか?」
「いえ!」
護衛依頼は、魔物の討伐や薬草採取と並ぶ冒険者の代表的な仕事の一つだが、それらの仕事とは勝手が違う。
そんな訳で教官の付き添いの元、実習として実際にやってみることになったのだ。
護衛依頼はそのほとんどが馬車で移動する人の護衛で、稀なケースを除いて冒険者は馬車に同乗するらしい。
だというのに
「おや、全員が乗れるスペースがありませんねぇ...」
などとこのクソ教官───担任のユーリ───は白々しく言い放ったのだ。
実際、俺たちは2パーティー+教官の計8人で、明らかに乗れるスペースはなかったのだが......
「まあこんなこともよくありますし、交代で走るしかありませんねぇ......仕方ありません、護衛依頼の一環です」
その瞬間の俺たちの心は一つだった。
『そんなわけないだろ!』
何せ、俺たちは授業で教わったのだ。
「こんな事」が起きないために、依頼主が冒険者の人数を指定して依頼を出すということを。
それも、コイツの授業で。
絶対わざとだ。
「お、お疲れ」
「た、大変だったんだな」
馬車が止まり交代が告げられると、出てきた3人の生徒が俺たちの様子を見て、ギョッとした表情でそう言った。
「ああ」
「頑張れよ」
アルフレッドと俺がそれに応えて立ち上がるが、
「......」
フランツが物言わぬ屍となっていた。
さっきはエマの事を励ましていたのに...。
一方、そのエマは疲れてはいそうだけど元気そうだ。今度は逆にフランツを励ましている。
「フランツ、ほら、馬車行こ?」
「......」
その後、馬車の中で復活したフランツが言う。
「...二人は元気そうだね」
「ふふ、いつもグレゴリー先生に扱かれてますからね」
「まあ、どんだけ小さい声で呟いても飛んで来るからな」
「言ってなくても飛んで来てたけど。アルの巻き添えで」
俺は学習して筋肉ゴリラの事をクソゴリーとか言わないようにしたこともあったけど、アルフレッドが言うと、俺まで何故だか共犯だと決めつけられて毎回引きずられていったのだ。
まあそのおかげもあって体力はかなりついた。
「きっと鍛えがいがあるんですよ」
どうなんだろう。
けど、あのニヤッとした意地の悪い顔を思い出すとただの嫌がらせな気もする。
あ。
そういえばアイツが担当してるパーティ、今頃どうなってるんだろう。
いや、考えるまでもないか...。
悲鳴をあげる生徒をさらに追い込んで、腹立たしい笑みを浮かべるグレゴリーの姿が簡単に想像できるな。
ご愁傷様......。
「はぁ...これがまだしばらく続くんだよね...護衛依頼って大変なんだね」
「隣の領までだからな...ハングレ子爵領だっけ?」
「ハングレーですよ。しかもあそこは黒い噂があるんですよね...」
「黒い噂?」
「はい、実はっ───!?」
そんな俺たちの会話は、急停止した馬車の揺れと、御者台から聞こえた叫び声で中断された。
「魔物だー!」
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