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第一章

クソゴリー

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 決闘騒ぎから一ヶ月が経った。

 結局、あれからゼリルド絡みで何か問題が起こったりとかはなかった。

 まあ、父さんは裏で動いてるかもしれないけど。あれだけブチギレてたし。

 
 ちなみに、「決闘だ!」って戦ってたけど、実はあれは成立していなかったらしい。

 なんでも決闘というのは、勝ったらどうする、負けたらどうするっていうのを明確にしないといけないらしい。

 しかもその上で国王にそれを知らせて、公平な立会人が派遣されてはじめて正式なものになるんだとか。

 つまり俺たちのアレはただの街中での喧嘩だった......。

 「勝手に決闘なんかしてすみません」

 と言った時の、父さんのなんとも言えない表情と、

 「あー...あれはな...」

 と言いづらそうに教えられた事実。

 思い出すだけでめちゃくちゃ恥ずかしい。

 みんなには黙っておこう。

 てかあいつ、ふっかけて来たくせに自分も知らなかったのか......。



 後日、アルフレッドに
 
 「そういえば決闘ってなんなんだ?」

 と聞かれた時には焦りながらなんとか誤魔化した。

 「え!?えーと、ほらあれだよあれ、貴族が戦って主張通すやつ!」

 「お前主張なんかしてたか?あいつはそれっぽいの言ってたけど」

 「ほ、ほら、明確には言ってなかったけど流れ的に...さ?」

 「ふぅん、そういうもんなのか」

 その様子がよほど滑稽だったのか、フランツは下を向いて口元を歪め、エマは小さく吹き出していた。

 誤魔化せたけど結局恥ずかしい思いをするのに変わりはなかった......。

 



 「あぁ...死ぬかと思った...吐きそう」

 「レベル上がっても辛さ変わらないのおかしいだろ......」

 「むしろ余計しんどくなってないか?」

 そんなこんなで、俺たちは鬼教官に扱かれる平和な日々を送っている。

 かなり強くなったので「今なら楽勝かもな」と笑い合っていた俺たちだったが、その分トレーニングの負荷が上がっただけだった。

 その鬼畜っぷりから生徒の間では、こんなあだ名が広まっている。

 クソゴリー。グレゴリラ。
 
 バレた奴が引きずられて行き、特別メニューが課されるまでがセットだ。

 もちろん、本気でグレゴリー先生のことを嫌ってる生徒はいない......と思う。

 的確なアドバイスをくれるし、俺たちも武器の相談に乗ってもらった。

 それにスタンピードの時には生徒を助けて回っていたらしい。

 むしろ慕われていると言っていいだろう。

 だが、それとこれとは話が別なのだ。


 「はぁ... この後どっか行こうぜ。美味い飯でも食わなきゃやってられん......」
 
 息も絶え絶えのアルフレッドが言うが......

 うっ......生まれそう。

 今飯の話はやめてほしい。


 「おい貴様ら!なんだその体力の無さは!?」
 
 突然、グレゴリーの胴間声が響いた。

 周りの生徒たちの表情が"ぐにゃあ"と歪む。

 ...嫌な予感しかしない。俺たちは揃って奴から顔を背けた。

 こう言う時、奴がその予想を裏切らないことを俺たちは知っている。

 「そんなことでは一人前の冒険者にはなれん!ランニング150周だ!立て!!」

 やっぱり!

 「そ、そんな......」 

 「もう無理です...!」



 「「...クソゴリー......」」

 俺とアルフレッドが下を向きながら同時に小さく呟くと、背後から重厚なプレッシャー。

 冷や汗を流しながら恐る恐る視線を向けると、そこには一瞬前まで十メートル近く離れていたはずのゴリ......グレゴリーの姿があった。
 

 あ。

 思った時にはもう遅い。

 奴の方に向いていた足をガシッと掴まれ、馬鹿力で引っ張られていく。

 「まだまだ元気が有り余っているようだなぁ?」

 「「く、くそがぁぁぁ」」

 グラウンドに俺たちの悲鳴が響き渡った。




 周囲の生徒は憐れみと呆れの入り混じった視線を二人に向けながら安堵した。

 「今日はあいつらか......」

 「た、助かった...」

 視線の先で、無限筋トレ編が始まっていた───。








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