上 下
24 / 26

第24話 テッド=ヴラドが死んで、エクムント=バルミングが生まれた

しおりを挟む
 エルフの国であるサルバリオン国の辺境地域。地理的に人間の集落もぽつりぽつりとある場所に彼女は居を構えていた。

 普段は農民として野菜作りをしているかたわら、人生のやり直しを手助けする仕事も続けていた。

 その仕事からか「人生再生家じんせいさいせいか」と言われるのが彼女、クロノだった。

 そこへ、彼の国で軍事クーデターが起きたという知らせが彼女の耳にも届いている国の王が彼女の元を訪れた。



「お前が人生のやり直しをしてくれるクロノというエルフだそうじゃないか。エルフィーナからお前を訪ねろと言われてやってきた。紹介状もある」

 そう言ってテッドはエルフィーナのサインが書かれた紹介状を出しつつ、人間には何歳なのかは見た目ではいまいち分からない女のエルフに声をかけた。

「へぇ、私も随分と名が知れるようになったようだね。人生をやり直したい。誰だって1度は思う事。だが、それが本当にできるとしたらどうする?」

「お前なら人生をやり直せると聞いてやってきた。何でも別人に生まれ変わらせることができると聞いたんだが」

「別人とは違うねぇ。正確に言えば、10年ほど肉体を老化させるの。同じ人間でも10歳も年齢が違えば別人に見える。だから人生の再出発が出来るというわけ。

 じゃあ早速始めるからそこのベッドに横になってちょうだい」



 エルフの寿命はおよそ1000年ほどと言われているが「1000年しか生きれないのか」と嘆くエルフも数多い。何とか寿命を延ばそうと研究を続けて得た「副産物」それが彼女が使う「老化」の術だ。

 人為的に「成長」あるいは「老化」させることで、一見しただけでは別人に見えるように細工をして人生をやり直したいという願いを実現させてきたのだ。

 ベッドの上に寝たテッドはアイマスクを付けさせられる。

「何でこんなものを?」

「商売敵が出てきちゃ困るからね。もう少ししたら意識が飛ぶからあなたの体感的にはすぐ終わるわ」

「へ? 意識が飛ぶ!? それってど……」

 彼女の言う通り、テッドの意識はそこでぶつりと切れた。



 テッドが目覚めた時には既に施術は終わっているとの事だ。

「気分はどう?」

「うーむ……それほど変わりないが本当に10年老化したのか?」

「まぁアンタは15歳だっけ? それが25歳になった程度だからそれほど身体の変化は劇的ではなさそうね。前に30の男が40になった時は『体がだるい』とかぼやいてたけどね。鏡で自分の姿を見たい?」

「あ、ああ。頼む」

 テッドはクロノから手鏡を受け取り自分の姿を見る。そこにはヒゲや髪が伸び放題のボサボサになった自分の姿が映っていた。

「う、うわ! 何だこりゃ!?」

「10年分の髪やひげが一気に伸びたみたいね。大丈夫、私は理容師でもあるから散髪も出来るわよ」

 そう言うと彼女は床屋が使うハサミやカミソリが何本も納められたケースを取り出し、身に着ける。



「クロノ、それは別料金か?」

「施術費用の中に入ってるから大丈夫よ。リクエストとかある?」

「そうだなぁ……せっかく生えたんだから口ヒゲを残してほしい。あとは任せるよ」

「分かったわ。じゃあやるわ」

 クロノはテッドの髪を切り、ヒゲを剃り、あるいは整えていく。



 30分後……



「はい終わったわ」

 クロノの手による散髪は終わった。テッドが鏡で見てみると中々の出来だ。

「これで施術は終わりか?」

「待って。最後に大事なものがあるわ」

 そう言うと彼女は「苗字」と「名前」と書かれた箱を2つ取り出し、テッドの前に差し出す。




「何だこれは?」

「名前と名字が入った箱よ。この箱に入ってる紙を1枚ずつ取り出して。それがあなたの新しい名前よ」

「新しい名前なのにそんなことで決めていいのか?」

「旧い名前を捨てるというのはそういうものよ。運頼みというのはある意味神様の領域だから神の導くままにってね」

「ふーん。そうか」

 テッドはそれぞれの箱に手を突っ込むと、名前の箱からは「エクムント」苗字の箱からは「バルミング」と書かれた紙が出てきた。

「決まりね。今日からあなたは「エクムント=バルミング」という25歳の男よ。もう15歳のテッド=ヴラドではないわ。せっかく生まれ変わった新しい人生なんだから、楽しんでいってね」



 こうして15歳の青年「テッド=ヴラド」は今までの自分を捨て、25歳の男「エクムント=バルミング」という新たな人生をスタートさせた。



【次回予告】

エクムント=バルミングとなって10年。その身が朽ち果てるまで旅を終えるつもりはない。今日も彼は旅に出る。

最終話 「贖罪しょくざいの旅」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】作家の伯爵令嬢は婚約破棄をされたので、愛読者の第三王太子と偽装結婚して執筆活動に邁進します!

早稲 アカ
恋愛
伯爵令嬢のアナリス・キャンベルは、ペンネームで小説家として活動していた。 ある夜会で、アナリスは婚約者の罠にかかり、婚約破棄をされてしまう。 逃げ出した会場で、ある貴族と出会うが、彼は隣国の王太子であり、アナリスの本の熱烈なファンだった。  しかも、執筆の応援として偽装結婚を持ちかけられ……。 アナリスと王太子との熱い偽装結婚の行方は!?

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

青の雀
恋愛
第1話 婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

生け贄のお嬢さんが、生き埋めのドラゴンさんに会いましたとさ。

いちい千冬
恋愛
王国の食糧庫と呼ばれるほどに農業が盛んなマルクール領。 領主子息の花嫁候補として呼ばれた農場の娘、イオラは、他の花嫁候補者に危害を加えたとして捕らえられ、この地に封印された“悪しきドラゴン”の生け贄にされてしまう……ようですが。 小説家になろうにて投稿したものの加筆・修正版です。全5話。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。

藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。 伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。 セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。 そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに…… 婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。 そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

処理中です...