16 / 26
第16話 地竜討伐 後編
しおりを挟む
訓練所での打ち合いが終わり、吉次郎とレオナルドの2人は上機嫌のまま仕事にかかる。領民からのワームの目撃情報が多数寄せられる場所へと向かった。
道と言えばケモノ道程度しかない、柴やヤブの茂った未開の森だ。エクムントは剣をナタのように使って切り開きながら進む。
「これは……ワームが通った跡だな」
エクムント一行は何か太いものが2~3度通ったような跡を見つけた。素人が見たらケモノ道のように見えるが、よく見ると長い時をかけてケモノ達が地面を踏みならした跡はない。
ワームは一般的にはヘビのような細長い体、と言われているものの実際の身体は人間の胴体程の太さがあり、体長は人間の軽く倍以上はある巨体だ。それが通ると必ず特徴的な跡が残る。
本来はワームを「避ける」ためのノウハウだがエクムント達はワームを「見つける」為に使っていた。
ワームの通り道を発見してしばらく……3メートルほどの高さにある木の皮がむけて鋭利な何かでついた傷がある木を見つけた。
「これは……爪とぎをした跡だな。傷の高さからしてワームだ……この辺りにいる可能性が高いな」
普通の人間からしたら見上げないと見えない位置にある爪とぎの跡。この辺りでは長い事クマの出没情報が無いし、そもそも余程大きなクマでさえ手の爪が届かない位置だ。
ほぼ間違いなくワームの仕業だろう。その傷の深さからして、業物と言える剣や刀ですら勝てない位の鋭さを持つことが想像できる。
「間違いない。すぐ近くにワームがいるな。いつでも戦えるように準備していてくれ」
エクムントは連れにそう指示する。そう言いながらも彼は望遠鏡で辺りを警戒するように見回す。そして……
「!! いたぞ!」
望遠鏡でその姿をとらえた。茶色と灰色を混ぜ合わせたような色をした鱗に覆われた、ヘビのように細長い体。依頼に出てきたワームの姿、そのままだった。
「今だ! かかれ!」
「おっしゃ行くぜ!」
3人はワームが後ろを向いている隙を見て死角から2人、いや『2匹の猛獣』が襲い掛かる!
レオナルドが「鋼の塊」と言える分厚く長い大剣を振り、ワームに襲い掛かる!
ワームの尻尾に近い場所に剣がぶつかり、ゴギボギッ! という何か硬いものが砕けるような音とともに、鱗をへし折り肉を折り曲げ、骨にまで達する1撃を食らわせる。
次いで吉次郎がレオナルドの背後から現れ、大剣が当たった場所にピタリと合わせて愛刀「村正」の斬撃を食らわせる。
「村正」はただでさえ彼の祖国では屈指の業物と言える切れ味を持つ。
その上で吉次郎が手にしてから30年以上魔物を斬り続け血を吸ったためか一種の「妖刀」と化しており、ドラゴンの身体すら切り裂く切れ味を持っていた。
それを存分に生かしてレオナルドが負わせた傷と合わせてワームの胴体を切断する。切断面から鮮血がドバドバと吹き出た。
「キシャアアア!!」
ワームは興奮状態になったのか、それともおびえをかき消すためか、大きく吠える。そして口から灼熱の火球を飛ばして反撃してくる!
だがそんな攻撃に当たるほど3人は間抜けではない。難なく避けて次の手を打つ。
レオナルドが再び剣を振るい、ワームの胴に強烈な1撃を食らわせる。その衝撃でほんのわずかの時間だが、ワームの頭が下を向く。その隙を吉次郎は逃しはしなかった。
ワームの頭の上まで跳び上がり、脳天を叩き割るように村正を振るう! 刀は相手の頭部を深々と叩き斬り、脳にまで達する斬り傷を作る。
「ガッ……」
いくらワームと言えど脳にまで達する深い斬撃を食らったら致命傷だ。力を無くしてドサッ。という音とともに倒れ、動かなくなった。
「やったか?」
「手ごたえありでしたな。念のため首を斬り落としましょう」
念には念を入れて、彼らはワームの首を斬り落とす。これで死んだふりなどは出来ないはずだ。
「さて、ここからは私の番ですな」
エクムントは『知り合い』の召喚に使う本を広げる。
報酬については依頼主と交渉し「ワームの死体は全てエクムント達の物。その代わり現金による報酬は無し」ということになっていた。
下級とはいえドラゴンはドラゴン。鱗も牙も爪も武器や防具の素材としては1級品だし、骨も1本残らず武器防具どちらにも利用できる。
肉も血も内臓もその全ての部位が高級食材で、噂では食べると寿命が延びると言われており金持ちたちが欲してやまない。
とはいえ死体からの剥ぎ取りに、剥ぎ取った素材の流通経路の確保、素材を加工する職人の手配などを考えると、
冒険者だけでは「素材を生かすことは出来なくはないが超絶に面倒くさい」部分もあるので『普通は』冒険者には相応の報酬を与えて、死体は討伐クエストの依頼主が引き取るケースが多い。
そう……『普通の冒険者の場合は』である。エクムントはその点において普通ではなかった。
「召喚……トニオ=タベルスキー!」
「召喚……グレイグ=スミス!」
「召喚……」
エクムントは先日通話で話をしていた知り合い達を次々と召喚していく。
高級食材であるドラゴンの肉を買い取る料理人達、鱗や骨を求める鎧職人達に、牙や爪が欲しい武器職人達。
総勢9名を呼び出し素材を剥ぎ取らせ、あるいは素材と引き換えにカネをもらう。
彼らは皆素材を積み込めるように台車を引きながら召喚されており、次々と収穫物を積み込んでいく。
ワームの死体は30分程度で殺した証として領主に提出する牙を1本残らず抜かれたワームの頭部を除いて全て解体され無くなり、
代わりにエクムントの手には何通もの「かなり良い額」が書かれた小切手が残った。彼は財布に小切手を丁寧にしまった。
「はぁ~……しっかしまぁエクムント。お前、本当に顔が広いんだなぁ」
「私も付き合って数年経ちますがこういうのは初めてですな。たった1人で経済を回すとか、なかなか見れたものではござりませんな」
レオナルドも吉次郎も、親友の顔の広さに目を丸くしていた。
「何せ長年世界各地を旅していると知り合いが多くなるのでね。では帰りましょうか」
エクムントに先導されるように3人は「領主への手土産」を持って帰路に就いた。
【次回予告】
ようやく当面の目標であるイスターナ国にたどり着いたエクムント。だがそこではとある重大な問題を抱えていた。
第17話 「イスターナの姫君 エリン」
道と言えばケモノ道程度しかない、柴やヤブの茂った未開の森だ。エクムントは剣をナタのように使って切り開きながら進む。
「これは……ワームが通った跡だな」
エクムント一行は何か太いものが2~3度通ったような跡を見つけた。素人が見たらケモノ道のように見えるが、よく見ると長い時をかけてケモノ達が地面を踏みならした跡はない。
ワームは一般的にはヘビのような細長い体、と言われているものの実際の身体は人間の胴体程の太さがあり、体長は人間の軽く倍以上はある巨体だ。それが通ると必ず特徴的な跡が残る。
本来はワームを「避ける」ためのノウハウだがエクムント達はワームを「見つける」為に使っていた。
ワームの通り道を発見してしばらく……3メートルほどの高さにある木の皮がむけて鋭利な何かでついた傷がある木を見つけた。
「これは……爪とぎをした跡だな。傷の高さからしてワームだ……この辺りにいる可能性が高いな」
普通の人間からしたら見上げないと見えない位置にある爪とぎの跡。この辺りでは長い事クマの出没情報が無いし、そもそも余程大きなクマでさえ手の爪が届かない位置だ。
ほぼ間違いなくワームの仕業だろう。その傷の深さからして、業物と言える剣や刀ですら勝てない位の鋭さを持つことが想像できる。
「間違いない。すぐ近くにワームがいるな。いつでも戦えるように準備していてくれ」
エクムントは連れにそう指示する。そう言いながらも彼は望遠鏡で辺りを警戒するように見回す。そして……
「!! いたぞ!」
望遠鏡でその姿をとらえた。茶色と灰色を混ぜ合わせたような色をした鱗に覆われた、ヘビのように細長い体。依頼に出てきたワームの姿、そのままだった。
「今だ! かかれ!」
「おっしゃ行くぜ!」
3人はワームが後ろを向いている隙を見て死角から2人、いや『2匹の猛獣』が襲い掛かる!
レオナルドが「鋼の塊」と言える分厚く長い大剣を振り、ワームに襲い掛かる!
ワームの尻尾に近い場所に剣がぶつかり、ゴギボギッ! という何か硬いものが砕けるような音とともに、鱗をへし折り肉を折り曲げ、骨にまで達する1撃を食らわせる。
次いで吉次郎がレオナルドの背後から現れ、大剣が当たった場所にピタリと合わせて愛刀「村正」の斬撃を食らわせる。
「村正」はただでさえ彼の祖国では屈指の業物と言える切れ味を持つ。
その上で吉次郎が手にしてから30年以上魔物を斬り続け血を吸ったためか一種の「妖刀」と化しており、ドラゴンの身体すら切り裂く切れ味を持っていた。
それを存分に生かしてレオナルドが負わせた傷と合わせてワームの胴体を切断する。切断面から鮮血がドバドバと吹き出た。
「キシャアアア!!」
ワームは興奮状態になったのか、それともおびえをかき消すためか、大きく吠える。そして口から灼熱の火球を飛ばして反撃してくる!
だがそんな攻撃に当たるほど3人は間抜けではない。難なく避けて次の手を打つ。
レオナルドが再び剣を振るい、ワームの胴に強烈な1撃を食らわせる。その衝撃でほんのわずかの時間だが、ワームの頭が下を向く。その隙を吉次郎は逃しはしなかった。
ワームの頭の上まで跳び上がり、脳天を叩き割るように村正を振るう! 刀は相手の頭部を深々と叩き斬り、脳にまで達する斬り傷を作る。
「ガッ……」
いくらワームと言えど脳にまで達する深い斬撃を食らったら致命傷だ。力を無くしてドサッ。という音とともに倒れ、動かなくなった。
「やったか?」
「手ごたえありでしたな。念のため首を斬り落としましょう」
念には念を入れて、彼らはワームの首を斬り落とす。これで死んだふりなどは出来ないはずだ。
「さて、ここからは私の番ですな」
エクムントは『知り合い』の召喚に使う本を広げる。
報酬については依頼主と交渉し「ワームの死体は全てエクムント達の物。その代わり現金による報酬は無し」ということになっていた。
下級とはいえドラゴンはドラゴン。鱗も牙も爪も武器や防具の素材としては1級品だし、骨も1本残らず武器防具どちらにも利用できる。
肉も血も内臓もその全ての部位が高級食材で、噂では食べると寿命が延びると言われており金持ちたちが欲してやまない。
とはいえ死体からの剥ぎ取りに、剥ぎ取った素材の流通経路の確保、素材を加工する職人の手配などを考えると、
冒険者だけでは「素材を生かすことは出来なくはないが超絶に面倒くさい」部分もあるので『普通は』冒険者には相応の報酬を与えて、死体は討伐クエストの依頼主が引き取るケースが多い。
そう……『普通の冒険者の場合は』である。エクムントはその点において普通ではなかった。
「召喚……トニオ=タベルスキー!」
「召喚……グレイグ=スミス!」
「召喚……」
エクムントは先日通話で話をしていた知り合い達を次々と召喚していく。
高級食材であるドラゴンの肉を買い取る料理人達、鱗や骨を求める鎧職人達に、牙や爪が欲しい武器職人達。
総勢9名を呼び出し素材を剥ぎ取らせ、あるいは素材と引き換えにカネをもらう。
彼らは皆素材を積み込めるように台車を引きながら召喚されており、次々と収穫物を積み込んでいく。
ワームの死体は30分程度で殺した証として領主に提出する牙を1本残らず抜かれたワームの頭部を除いて全て解体され無くなり、
代わりにエクムントの手には何通もの「かなり良い額」が書かれた小切手が残った。彼は財布に小切手を丁寧にしまった。
「はぁ~……しっかしまぁエクムント。お前、本当に顔が広いんだなぁ」
「私も付き合って数年経ちますがこういうのは初めてですな。たった1人で経済を回すとか、なかなか見れたものではござりませんな」
レオナルドも吉次郎も、親友の顔の広さに目を丸くしていた。
「何せ長年世界各地を旅していると知り合いが多くなるのでね。では帰りましょうか」
エクムントに先導されるように3人は「領主への手土産」を持って帰路に就いた。
【次回予告】
ようやく当面の目標であるイスターナ国にたどり着いたエクムント。だがそこではとある重大な問題を抱えていた。
第17話 「イスターナの姫君 エリン」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
俺の性癖は間違っていない!~巨乳エルフに挟まれて俺はもう我慢の限界です!~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
ある日突然、見知らぬ世界へと転移してしまった主人公。
元の世界に戻る方法を探していると、とある森で偶然にも美女なエルフと出会う。
だが彼女はとんでもない爆弾を抱えていた……そう、それは彼女の胸だ。
どうやらこの世界では大きな胸に魅力を感じる人間が
少ないらしく(主人公は大好物)彼女達はコンプレックスを抱えている様子だった。
果たして主人公の運命とは!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写などが苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件
微炭酸
ファンタジー
勇者見習い職とされる“冒険者”をしていたハルトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。
そして同じくパーティーを追放されたマナツ、モミジ、ユキオの3人とパーティーを組む。
しかし、4人の職業は全員“魔剣士”であった。
前衛も後衛も中途半端で決して良い待遇を受けない魔剣士だけのパーティー。
皆からは笑われ、バカにされるが、いざ魔物と闘ってみるとパーティーボーナスによって前衛も後衛も規格外の強さになってしまい――
偏った魔剣士パで成り上がりを目指す冒険ファンタジー!
※カクヨム様・なろう様でも投稿させていただいています。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる